「RefRain/上田麗奈」考 -「あなた」の人生の物語-

お久しぶりです。今回は初めて、私が全編自分で筆を執って書かせて頂きます。

12/21に上田麗奈さんのデビューミニアルバム「RefRain」が発売になりました。

「本人からの意味深なメッセージ」という非常に気合の入ったトレイラーで幕を開けた本作のプロモーションは、本作リリースのへの高い期待を与えるものでしたが、喜ばしいことに、実際に全編を通して聞いてみると「高い期待」をさらに超える素晴らしい内容だったと思います。

今回は音楽性に加えて、ご自身もだいぶ手を入れ、自分の言葉にしたという歌詞の2点について、1曲ずつ触れることで、このアルバムが持つ意味について考えたいと思います。

M1 .「マニエールに夢を」

本作の幕開けを務めるこの楽曲は、fhanaでの活躍で高名な佐藤純一さんが作曲を担当されています。ピアノ、ドラム、ウッドベース、ストリングスのフレーズから軽やかに、ゆるやかに始まり、ドリームポップのオケにメロウなサビが印象的な開放感溢れるサビに駆け上っていきます。歌詞において印象的なのは「私」の視点から外の世界を語りながら

 「日々は繰り返す  いつだって時計の輪の中」

と歌い、アルバムタイトルにもある「Refrain(=繰り返し)」を高らかに宣言することです。一見、諦めや戸惑いにも似たこの感触を前述の通りのメロウなフレーズで歌うことで聞き手に切なさ、あるいは静かな高揚という全く意味合いを与えてくれています。

M2.「ワタシ*ドリ」

軽やかで可愛らしいリフを土台にした「楽しさ」「不思議さ」が際立っているこの楽曲ですが、他楽曲と比べてもボーカルの歌い分けが色濃い楽曲でもあります。歌詞は、他者から見た「上田麗奈」さん像が描かれているとのことですが、

「クルクルって表情変えて (そんな風に見えてるかな?) 何を考えているか内緒」

「ねぇ、ここじゃないどこかへ行ってみたいと思わない?」

「一緒にいってみる?」

3フレーズに目を引かれます。コロコロ変わる「変わりやすさ」と、歌詞中に出てくる「あなた(=自分以外の誰か)というテーマ的な軸、それに加えてリフという音楽的な軸が対として曲に一層の深みを持たせています。

M3.「海の駅」

アルバムのリードトラックになったこの楽曲は作曲のrionosさんらしいドローン、アンビエントな雰囲気と空間的なピアノのフレーズ、エレクトロニカ的なシンセのノイズ、曲の要の部分に入ってくる低音が大変に心地よく、まさに海原にゆらりと浮かんでいるように感じられます。本楽曲は「今までの自分を支えてくれている周囲への感謝」の気持ちを表したとのことですが、

「ずっと遠くまで繋がってる、線路の果て」

「通り過ぎて見えなくなる わたしはわたしのまま」

「ここにいたい、そこへいきたい 違うようで同じだって気付かせてくれたの」

といったフレーズから「海の駅」(=無限の行き先の中、不安的な現在地)に佇むある種の肯定、あるいは自信が感じられます。

M4.「毒の手」

某映画の劇伴の有名なフレーズにも似た主題が繰り返し繰り返し使われるこの楽曲は本作で最もどっしりとしたサウンドが鳴り響きます。声優楽曲で用いられる低音の強調はダンスミュージックとしての低音の意味合いが強いものが多いですが、ここではM3的にも似た落ち着いた美しく体を撫でつけるような低音だと感じられます。

歌詞に関しても、M3で感じられた達成の後に、「手」というモチーフにして「他者に触れること、関わりの難しさ」が述べられ、戸惑い、不安について述べられることで文字通り、本作の重厚さを明確なものにしています。

M5.「車庫の少女」

M2と対になるように作られたというこの楽曲は「他者から見た上田麗奈さん」をさらに俯瞰する自分が表現されているとのことで、非常に個人の内面への鋭い眼差しで貫かれているように思われます。

「愛してくれる人を、愛したいじゃない」

と歌われるこの楽曲は「車庫の少女(=彼女自身)の」生々しい欲求が吐露されることで、M4.不安や戸惑いから気持ちが爆発していくような様を感じられます。

曲調としてはまさにM2の対となるようなマイナー調の壮大なワルツ楽曲となっていますが、ドラムのハイハットが44で刻まれてる事でさらに楽曲の複雑さ(=面白み)が増しており、非常に味わい深いものとなっています。

M6.「あなたの好きなメロディ」

M5と同じく3拍子でストリングスがな鳴り響くこの楽曲は主題が同一延長上にあることを強く連想させます。ただ、対照的に明るくじっくりと力強く前を向いていくようなこの楽曲は

「ゆっくりと溶かして その想いもぜんぶ そのままのあなたで」

「ぜんぶ抱きしめて 側にいる」

という歌詞からもうかがえる通り、M4,M5で述べられたマイナスな気持ちも自分として受け止めて進んでいく様子が描かれます。歌詞の詳細については触れないですが、この楽曲の中の「あなた」はM5の「車庫の少女」であり、彼女自身のある面が、彼女自身の別な面を「あなた」と呼びながら、自分を赦していく様子が表現されています。

また、楽曲の最後にはM1のフレーズが使用され、ここでも「Refrain(=繰り返し)」が表現されていますが、ここで、M1中のミクロな「Refrain(=繰り返)」と作品全編を通したマクロな「Refrain(=繰り返し)」が存在し、フラクタル模様が明らかになります。これによって、音楽性、歌や歌詞の表現も含めて、「迷いながら、前に進んでいくこと、そしてそれを何度も繰り返して、未来に向かうこと」という統一的なテーマが浮かび上がってきます。

まとめ -「あなた」の人生の物語-

さて、前述の通り、この作品は歌詞の世界観と楽曲の世界観が綿密に絡み合いながら、色濃い主題を作り出しています。そして、歌われた「わたし」あるいは「あなた」に関する主題は、上田麗奈さんという表現者の個人的な内容でもありながら、非常に普遍的で、私たち自身にも置き換える事が可能なのです。

私はこの作品に触れて、「このアルバムの楽曲に置き換えると、今の自分の人生はどこにいるのだろう?」と感じました。もしかしたら、今現在の自分に最も響くその曲が自分の現在地かもしれないし、「こうなりたい!」と願う未来かもしれません。

私は、そんな事を考えながら、このアルバムが「今だけでなく、今後長い時間をかけて味わっていくことができる作品」あるいは「自分の人生の時期によって味わいが変わる深みのある作品」と言えるのではないかと考えています。