映画『聲の形』とThe Who”My Generation”

People try to put us down Just because we get around

たむろしてるってだけで 皆俺たちを押さえつけようとしてる

Things they do look awful cold  I hope I die before I get old

奴らのやることは酷く冷めきってる 歳なんてとる前に死んじまいたい

This is my generation This is my generation, baby

これが俺たちの世代 俺たちの世代だ

Why don’t you all fade away Don’t try to dig what we all say

早く失せちまえよ 俺たちの言うことにつっかかるなよ

I’m not trying to ’cause a big sensation I’m just talkin’ ’bout my generation

センセイションを起こすつもりなんてない これが俺たちの世代さ

 

公開中の映画『聲の形』冒頭でThe Whoの「My Generation」が流れたことに驚いたのは僕だけではないはず。というか、そもそも誰が歌っている何の曲か分からない人も劇場には大勢居たのではないだろうか。

The Who(ザ・フー)はイギリスのロックバンドで1964年にデビュー。日本ではやや知名度に欠ける印象もあるがビートルズ、ローリング・ストーンズと並び称されることもある伝説のバンド。そんなThe Whoの数多いヒット曲の中でも最も有名ともいえる曲が今回『聲の形』の冒頭で使用された”My Generation”なわけです。「年老いる前に死んでしまいたい」というセンセーショナルな歌詞とパンキッシュな曲調で「パンクの元祖」みたいな言われ方をすることもあるこの曲が、なんでまた『聲の形』で起用されることになったのだろうか。

聲の形は京都アニメーション製作の漫画を原作とした、聴覚障害のある女の子西宮さんといじめっ子の男の子石田くんを中心に、様々な少年少女の人間模様と心の動きを描いたアニメーション映画である。そんな聲の形の監督山田尚子さんは今までに監督してきた作品(けいおん!、たまこまーけっと)でもロック・ポップ音楽への愛と造詣の深さを作中にオマージュのような形で取り入れることで伺わせていた。

中でも、山田尚子さんが監督したアニメ『けいおん!』の作中でバンド名を上げて触れられ、細かなネタでも多く使われたのが何と言ってもこのThe Whoだった。律が影響を受けたドラマーにキース・ムーン(Dr.)を挙げ、唯がピート・タウンゼント(Gt.)のウインドミル奏法真似したりツナギをステージ衣装にしたいと発言させたりなどなど…。そして劇場版のエンディングではThe Whoが発表したロック・オペラ「四重人格」を元に作成された映画『さらば青春の光』のオマージュカットが多く使用されたことで山田尚子監督が業界きってのThe Whoフリークであることが明らかになっていたのである。

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2期2話における伝説のギタリストのイメージカットとして登場したThe Whoのギター、ピート・タウンゼント

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劇場版EDでの『さらば青春の光』オマージュカット。

※一部画像も引用させてもらっているがこちらのブログでThe Whoとけいおん!の繋がりを詳しく説明している。とても参考になる。

 

そして今回、『聲の形』では遂にThe Whoの代表曲ともいうべき「My Generation」をオープニングの曲として使用していたわけです。今までの山田監督のフーファンぶりを知っている人からすれば「つ、遂に曲を流すところまで来たか…」てなものだったが、そんな事知った事ではない来場者からすれば「なんかよくわからないけど古臭いバンド音楽がかかったな」くらいのものだろう。なにせ『聲の形』は人気歌手のaikoを主題歌に迎え、どちらかというと「感動の青春ラブストーリー」として公開前から広く宣伝が行われていたし、実際幅広い年代に受け入れられる内容で全国的なヒットを飛ばしている。そんな中で日本ではさほど知名度もないバンドの、ヒット曲とはいえ最近CM等で使われたわけでもない耳馴染みの薄い曲を冒頭で流しているのはなかなかに攻めた姿勢だ。

しかしその歌詞に注目してみると、冒頭でこの曲が使われた事にも納得がいく。

「My Generation」は若者のフラストレーションを代弁した曲だ。「皆俺たちを押さえつけようとしてる」「早く失せちまえ」「歳とる前に死んじまいたい」「これが俺たちの世代さ」…投げやりで、行き場のない鬱屈した想いを吐き出した曲。そんな歌詞が当てはまる作中の人物といったら、この曲をバックにピックアップされる人物、石田くんだろう。小学生の頃はクラスのガキ大将、しかしある事をきっかけに世界から孤立してしまう…常にどこかやり場のない想いを抱えているような彼に、この曲はぴったりとハマっていたように感じた。

エンディングで流れるaikoの主題歌「恋をしたのは」の歌詞が(特にラストシーンでの)西宮さんの心情をイメージしたものだと考えると、この2曲は石田くんと西宮さんそれぞれの、メインの二人を表すテーマ曲的な捉え方もできると僕は思う。作られた時代も曲調も歌詞の内容も全く違うが、物語の始まりと終わりにマッチした対照的で素晴らしい使われ方だと思った。

 

で、実際山田監督は「My Generation」を使用した意図について、インタビューで以下のように答えている

――劇中ではストーリーと登場人物たちに寄り添っていくようなイメージの音楽が印象的でしたが、逆に劇中で採用されていたThe WhoのMy Generationが映画の終わりまで異質感を放っていたように思いました。

きっかけは、音響監督から「ひとつの映画としてみんなの心に残るエバーグリーンな曲が使えるといいよね」ってお話をいただいて、んーーーエバーグリーンかぁ、と。人の心に根ざすような音楽ってなんだろうなと考えていた時に、岐阜の養老天命反転地に行ったんです。そこで将也のことをひたすら考えていた時に、突然The WhoのMy Generationが頭の中でかかってきて、すごい若い時の…底抜けに退屈だけどすごい万能感があって、小学校時代の将也とすごく重なって同化した瞬間があったんです。

――それこそパンク精神ですよね。

なんかね、仲間がいて底抜けに走っていける感じとかどこか弱さがある感じとか、とてもぴったりくるなと思って恐る恐る曲の提案をしてみました。(中略)見ている人が、いい意味で将也たちとシンクロしていただけるとよいなと思ったんです。将也を「こいつおもしろいな」と思ってもらえたらいいなというか。たくさんのセリフで将也を説明するよりは、The Whoのこの曲がかかったほうが将也を表現できた

ぴあ関西版2016年10月4日更新分 山田尚子監督インタビューより)

 

ちなみに「My Generation」でVo.のロジャー・ダルトリーはどもるような歌い方をしている(d,d,down~、g,g,generation~など)。このことから吃音者へ配慮されて英国では一時期ラジオで放送されなかったそうだ。ロジャーがこの歌い方をした背景には諸説あり今でも明確にはなっていないが、ロジャーが影響を受けていたブルース歌手ジョン・リー・フッカーを真似たからとも言われているし、本人は何かのインタビューで「当時の感情をうまく表に出せない内気でどもりがちな若者を表現した」と言っていたと思う。そういった点も今回の映画の内容と併せて考えると少し興味深い。またThe Whoは『Tommy』という見えない・聞こえない・喋れないの三重苦を抱えた少年を題材にしたロック・オペラも作成していたりする。

 

…まあ何よりaikoの曲とThe Whoの曲が同じ映画の中で使われる事なんて地球が滅びるまでありえないと思うので非常に貴重だ。是非劇場で観てほしい。

もう劇場で観た人、あるいはこれから観る人で”My Generation”を知らない人はその歌詞に注目して、なぜこの曲が冒頭で流れたのか、是非注目していただきたい。

 

ザ・フー伝説のデビューアルバム。My Generationが入っている。

ザ・フー入門にちょうどいい、ヒット曲だけ集めたベスト盤。My Generationが入っている。

原作コミック。

映画けいおん!ではオマージュされていたし、聲の形冒頭で主人公が川へ飛び降りるシーンもどことなくこの映画を思い起こさせる…気がしないでもない。My Generationが流れるシーンがある。

K.すみす

K.すみす

白とチーズとペンギンと音楽と野球
K.すみす