映画「リンダ リンダ リンダ」と『文化祭』

この映画を教えてくれたmaezono、ありがとう。

■文化祭の話。

いつかのバラエティ番組で芸人が寝ている間に移動させられ起き抜けにいきなり全力で走らされる場面を見たことがある。理由もわからず、目的もわからず、ただ言われたコースを走らされる人の姿。そこに人生のミニチュアケースを目の当たりにした気分になった。

人は生まれながら理不尽に決められたコースに生き方を狭められる。家庭状況や、筋肉のつき方や土地、友人関係・・・。
あらかじめ定められた条件の中で自分のできることを必死で探して生きやすい環境を構築していくしかないのがいわゆる人生。ただ、その努力も初期数値によってある程度の結果は決まってしまっているようなものだ。

「生まれてしまってからではどうしようもない。」

もし、少しでも、人生というか、この世の中のことがわかった上でイチからやり直せるとしたら・・・。
なんてことは誰でも思いつくことで、しかし実際にその機会は人生に数度訪れることがある。
その一つが、実は「文化祭」だ。

・・・

「文化祭」は、どうしてか夏の終わりくらいから突然やってきて『この日に向けて頑張れ』と誰かが告げる。ただそれだけの仕組みで出来ている。さも「必然」という顔をして理不尽に迫ってくるものだ。
それを「お決まり」だとか「年中行事だから」と言われればそれまでだけれど、それ以上の、何か大きな力に動かされるように、地球に働く引力のように、ほぼ全員がその流れに従っていく。
そこでは「文化」の名の下、なにをやったっていいんだそうだ。それまで貯めてきた経験値や、適性なんてものがほとんどどうでもよくて、裸同然でゼロからスタートを切れる機会を与えられる。いきなり巨大な壁画を描きはじめたり、映画を撮るのも自由らしい。
普段問われている学力や、運動の出来不出来や、教室でのキャラクターイメージもほとんど絡んでこない。

「必然でありながら自分の意思で生まれ変われる」

そんなチャンスをみすみす見過ごせる人間は少ないのかもしれない。

『今年の文化祭、絶対に無駄にできない。』
『なんでもいいからやることを見つけよう。』

正体不明の熱気に当てられたような言葉が飛び交うのもそのためか。

『高校生ともなればもうここくらいしかないかもしれない・・・』
『今までの自分は本来の姿ではなくて、これから開花するのが本当の自分なんだ・・・』

様々な思惑の元、少年少女たちはその渦に盛大に巻き込まれていく。

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■文化祭の映画。

映画「リンダ リンダ リンダ」でも、4人の女生徒は度重なるトラブルの末、急造バンドでのライブ発表を強いられる。準備期間は3日。メンバーは、そこまで仲良くがいいわけでもない。楽器が特段得意なわけでもない(上級者もパート変えを余儀なくされている)。言葉さえろくに通じないような子まで誘って、初めて演奏するような曲をやる。
理不尽だ。不遇だ。なんでこんなことに・・・でも別にやりたくないならやらなければいい。投げ出せばいい。それができないのは前述の「文化祭」が持つ大きな力のせいだ。彼女たちは劇中その「なんとなくの必然」にずっと翻弄され続ける。

そして、その内に彼女たちはまったく新しい人間に生まれ変わる。
普段勉強をしているはずの校内でバンドの練習をする。変なスタジオに通う。体育館でひと時限りのロックスターになる。それらほんの数日前までと180°違う「非日常」は、言うなれば新しい人生始まりの原風景だ。

もちろんラストシーンの演奏は上手くなんかないし(最後に人が集まったのも上手くできた偶然だ)、途中振られた男子はそれこそかわいそうだし、元彼のプータローなんてどうなってるのかもしらないけど、そんなことよりももっと重要で、特に誰に知られるわけでもない奇跡がそこに起きていて、あの後雨が上がって、次の日になればまた退屈な日常に戻っていくだけなのに「生まれ変わった」という事実だけはきっと覚えているし、そのことがその後の人生を少しだけ変えるかもしれない・・・
そんな「文化祭」にまつわるありとあらゆる現象と様子が克明に、丁寧に描かれている映画。
 
この映画は台詞が少なく、ゆえに話の繋がりは見えづらい。女の子はみんな美少女かといえばそうでもない(個人の感想)。むしろノーメイクっぽくて見分けも付きづらい。引きや固定の絵ばっかりで躍動感がない。(この映画が駄作っぽく見えるところはそういう部分かもしれない)
それでも動きや口数を補って有り余る絵の力がある。重要なところほど無言になって画面を見せてくる。どちらかといえばこの映画の「内容」はこういうシーンの一つ一つだ。

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そしてブルーハーツというアーティストの普遍性。実際、初めて聞いて涙が流せて、3日でコピーできるバンドなんてブルーハーツ以外思い浮かばない。これも必然と言える完璧なチョイスだった。改めて聞いても、やっぱりいい。

一見主張が薄いように見える映画ではあるけれど、僕が思う「文化祭観」がほぼ余すことなく表現されている。最高の映画。ベストオブザベスト文化祭映画。
僕と同じように10数年前の文化祭が忘れられない、30近くになってもず〜っと文化祭の焼き直しばっかりやってる文化祭ジャンキーには心からオススメできる作品でした。

9月に再上映もやるみたいなので、ぜひこの機会に。

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