岩井俊二監督の映す世界と女性の美しさ 〜『リップヴァンウィンクルの花嫁』感想〜

岩井俊二 is back なのである。

黒木華という女優から溢れる“岩井俊二感”に、もう完全にやられてしまった。岩井監督は女性を映すのが本当に上手いと思うが、何より自分の作品に合う女優を探してくるのが本当に上手いと思う。それは『四月物語』の松たか子であったり『花とアリス』の蒼井優であったり『スワロウテイル』のCharaであったり…その女優の瞬発的な輝きを、これ以上合う作品があるのかという作品のフィルムに収めることに本当に長けている。

黒木華さんは絶世の美女かとか、誰もが魅了される可愛さかと言われると(もちろん美人な人だが)、少し違う気もするけど、少なくともこの映画の中では20分、いや10分に1回は「この人世界で一番可愛いんじゃないか?!」みたいな瞬間がある。それは黒木華さんの演技力と、その魅了を最大限に引き出している岩井監督の手腕にあるのだろう。やはり「主演女優を誰よりも魅力的に映す」というのは映画の基本中の基本中だと思うし、そういう意味でも本当に素晴らしい作品だと思った。あと黒木華に限らず、いわば岩井作品における2代目Charaとも言えるCoccoも、胡散臭さ爆発の綾野剛も、もうこれ以上ないという配役で素晴らしい演技を見せてくれる。

 

あと個人的に今回の『リップヴァンウィンクルの花嫁』は、岩井作品としてはだいぶ気の利いている、というか話も演出も分かりやすく心地よく観られる作品に仕上がっていたと思う。昔だと『スワロウテイル』や『PiCNiC』には独特な世界観があったし『リリィシュシュのすべて』は目を覆いたくなるほど重いシーンもあったけど、本作は比較的暗いタッチと明るいタッチのバランスが良く、舞台も現代でSNSや過干渉な親、嘘や本音などテーマも親しみやすい。話しも徐々にではあるがしっかり展開していくし、テンポも悪くない。実に気の利いた作品です。

また人の抱えてる“純粋さ”をこれほど上手く表現する監督もそれほど多くない気がする。純粋な善意、悪意、虚栄、夢…と、脚本だから登場人物の言葉や行為は作り物なんだけど、なんとなく身近な気がしてしまうのは、我々のもつ感情をそっくりそのまま登場人物へもたせた岩井監督の手腕によるものな気もする。だからこの映画の話も現実味の無い部分も多いんだけど、それでも斜に構えたり距離を置いたりせず観られる心地よさがある。

 

あとやっぱカメラワークが独特で魅入ってしまうものがあるのも岩井作品らしくて良かったです。ドキュメンタリー的というか、あえて手ブレしたりしたり俯瞰的な固定カメラを使用していたりして、あたかも登場人物のワンシーンを”覗いている”かのような気持ちにさせられる。この映画は3時間と上映時間が比較的長いため最初は身構えていたが、演出と話のテンポの良さで体感的にはそれほど長く感じなかったし疲れなかった。

 

そして何より、やっぱり昔と変わらない岩井イズムが散りばめられてて、本当に最高なんですよ。必要かと言われたら絶対必要じゃないような、クラシック音楽がかかり光に溢れる草原でヒロインたちが触れ合うシーンとか、これもう岩井監督じゃなきゃ出来ない(やらない)ようなシーンがまた観られたのが嬉しかったです。

正直我々のような岩井信者からしたら、”そうしたシーン”をスクリーンで観ただけであっさり100点を付けてしまうのですが、今作は全く信者向けのカルト映画とかでは無いし、むしろ岩井監督を知らない人も是非是非観て欲しい1本だと思います。

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P.S.

都合があうなら本作は是非「池袋HUMAXシネマズ」で、それも出来れば昼の時間に観て欲しいです。冒頭のシーンが映画館正面から始まるので、まるで今映画館の外で物語が始まったかのような気持ちになれます。たぶん。

K.すみす

K.すみす

白とチーズとペンギンと音楽と野球
K.すみす