#4 「ユカまっしぐら」から見るアニメ『夏色キセキ』

冬が過ぎ、春が来る。2016年冬クールも終わり、春アニメが始まる。
新番チェックに忙しい?録画予約を?まだ冬に録ったアニメを消化していない?気持ちはわかるがちょっとだけ時計の針を戻してもらっていいだろうか。そう、4年ほど。2012年春クールに放映されたアニメを思い浮かべてみてほしい。矢継ぎ早に新作をチェックしている人にはなかなか難しいだろうか。では、このアニメのことは。

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『夏色キセキ』は2012年4月から放映されたオリジナルアニメ。

企画の根本をなすのはアイドル声優グループ「スフィア」のメンバー4名をメインに据えた作品を、という構想であり、アニメ公式HPのキャラクター紹介ページではキャラ絵と並んでデカデカとスフィアメンバー各々の写真も載っていることからも、「スフィアのファン向け作品」というような、イロモノ的な見方をされることも少なくない。
しかし本作は、中学二年生の女の子4人が経験するすこしふしぎファンタジーなひと夏が描かれる素朴な作品であり、メンバーをそれぞれイメージして作られたキャラクターはキャストの個性をより引き出す相乗効果を産んでいる。中心となるのはメインキャラクターの関係性であり、女子中学生たちの一瞬を丁寧に描いた今作はスフィアのファンならずとも楽しめる作品だろうと思っている。げんに、そういう人間がこれを書いているので信じてほしい。

アイドルがテーマのひとつであること、制作:サンライズ、監督:水島精二、副監督:木村隆一という布陣を見たときに、同じく2012年10月からはじまった『アイカツ!』への助走がここから始まっていたのでは、というのは考えすぎだろうか。

妄想はさておき、今回は祝・夏色キセキ4周年、ということで特に気に入っているエピソードである #4 「ユカまっしぐら」を通してアニメ『夏色キセキ』の良さについて書きたい。
前知識として軽く #3 までの設定を説明しておくと、舞台は静岡県下田市、中学二年生の夏休みにさしかかった主人公たち4人は神社にある「オイシサマ」に願うことで空を飛んだり、身体が離れなくなったり(仲直りさせたいという願い)といった小さな”キセキ”を起こしている。

 

夏色キセキ #4 「ユカまっしぐら」
(脚本:綾奈ゆにこ  絵コンテ・演出:京極尚彦)

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優香の実家は旅館を営んでいる。

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「お母さんジュース~」

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酒屋の配達に来ていた幼なじみの従兄、貴史と鉢合わせ。

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「なんでいんの~?」

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「おはよ。いる?」

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「いる……。いる、です……」

 

50秒弱の間に優香のパーソナルな情報がつめ込まれた良いアバンだ。ちょっとだらしなくて、度胸がなくて、子どもっぽくて、でも貴史くんのことが気になっていて。そんな優花がかわいらしくコミカルに描かれていて微笑ましい。元気な女の子がわたわたしているシーンを見て笑顔にならない人間がいるだろうか!

続けてOP明けから見ていこう。

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緊張しながらぎこちない会話をしていると、東京への引っ越しが決まっている紗季の話題を持ちかけてくる。引っ越しはいつなのか、真剣に聞いてくる様子を見て優香は貴史の気持ちを察する。

 

『夏色キセキ』は4人のうちのひとり水越紗季が東京へ転校してしまう、という事件がキーになっている物語である。あたりまえのようにいっしょにいた友達がいなくなってしまう、ということを通して、改めて4人の関係性が見つめなおされる。そして、いつも物語を駆動させるのはムードメーカーの優香だ。

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「年下はないって言ってたのに」
「紗季、オトナっぽいから」
「どーせ子どもっぽいですよ」

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「髪、巻く?」
「一日保たない~」

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「いいなぁ紗季……。わたしも紗季みたいになれたら……」

 

「……紗季!紗季!」

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「わたし…紗季なの……?」

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オイシサマに願った効果によって紗季の身体に入れ替わった優香。真っ先にさきほど凛子との会話で出ていた「紗季のオトナっぽい要素」である「カールした髪」を触って確認する所作が良い。

入れ替わり回はキャストとしてもなかなか腕の見せ所ではあるが、今回 #4 のオーディオコメンタリー内での情報では「一度中身のままの役で演じたものをスタジオで録って持ち帰り、それを参考に予習してきて次のアテレコで改めて入れ替わった相手のものを真似て演じる」という、アニメのアテレコとしてはかなり贅沢な手の込んだ製作方法が取られていたことが明かされている。
他のアニメや吹き替え作品ではこういったやり方はほぼ無いだろうと思うが、スフィアのためのスフィアによる作品という『夏色キセキ』だからこそ可能になった演出なのだろう。

それだけに入れ替わったあとの演技は秀逸。戸松遥(優香)に寄せた雰囲気をかなりの精度で高垣彩陽(紗季)が演じている。逆も同様だ。こればかりはどうやっても文章だけでは伝えきれないので気になった人はぜひ視聴してチェックしてみてほしい。アニメ作品ならではの楽しさが味わえるポイントだ。

 

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入れ替わったもののすぐに紗季に見つかり、元に戻すためにオイシサマに連れだされてしまう。
運動が苦手な優香とテニス部の紗季が入れ替わったことで、優香の身体を使っている紗季が息切れしているところも細かくて良い。

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が、戻れない。優香と紗季がそれぞれ掛け合いをするこのシーンは演技も作画も入れ替わった様子が非常によく表現されている。

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どうにか戻れないかオイシサマに願っていると、次は夏海と凛子が入れ替わってしまう。スラップスティックだ……。スラップスティックSF(すこしふしぎ)だ……。

 

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戻るすべがないので、仕方なく優香の家に戻った紗季。優香の部屋は子どものころからファンだったアイドルグループ「フォーシーズンズ」のグッズだらけだ。紗季はずっと変わっていない優香を確認する。気移りしやすい優香だが「4人でフォーシーズンズみたいなアイドルになる」という夢だけは変わらずに本気で言い続けているのだ。

 

『夏色キセキ』における「キセキ」は、こうしたお互いの立場や思い、もしくは自分自身を再確認させるためのものとして機能する。

#2 「ココロかさねて」では夏海と紗季の身体がくっついてはなれない、という「キセキ」?が起こる。夏海は紗季の転校を受け入れられずにいるのだが、くっついてしまったことで紗季の部屋の様子を見ることになる。

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引っ越しの準備をしている部屋を見て、紗季がほんとうに転校してしまうのだ、という事実をここで見せつけられる。自分の知っている紗季の部屋と違う、片付けられ荷物が積み上がった部屋。ちょっとしたカットではあるが夏海の心情を表すにはピッタリの描写だ。

#6 「夏海のダブルス」においては夏海がふたりに分身してしまう。まさにこれは自分自身を見つめなおすことに繋がっている。ちなみに #2 も #6 も優香が願ったことで起こったキセキだ。

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例を挙げると長くなるので簡単な紹介にとどめるが、 #9 「旅のソラのさきのさき」では紗季が透明になってしまい、「自分がいない」なかでの自分の立ち位置、というのをここで発見する。 #10 「たいふうゆうれい、今日のオモイデ」ではタイムスリップしてきた子ども時代の自分たちと対峙する。あのころの自分たちと変わらないもの、変わったもの、それを4人は見つめなおす。このように並べると『夏色キセキ』における「キセキ」がどういったものなのかわかってもらえるだろう。

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さて、 #4 に戻ろう。

優香は結局、紗季の身体を使って貴史とデートの約束をしてしまう。他3人も優香が変な気を起こさないようにデート先の水族館に向かう。

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こうして並べると、京極尚彦の絵コンテ・演出は光と影をかなり取り入れたものになっているのだなとわかる。それぞれ同じ場所だがウキウキしている優香(身体は紗季)の様子は明るい日向で描写されて、それを心配している3人のカットは日陰になっている。構図も同じで良い対比だ。
目のハイライト処理なども他の話に比べるとキラキラした画面づくりをしているようだ。上の画だと汗にハイライトが入って光っている。

夏色キセキはスフィアだけではなく下田市も全面的にフィーチャーした作品なので、舞台はすべて実際の下田市をロケハンしたものをそのまま使っている。今回の水族館は「下田海中水族館」だ。この2012年ごろは特に聖地巡礼を意識したご当地アニメが多かった印象がある。『輪廻のラグランジェ』とか……。

 

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「時間は、大丈夫なんですか…?夏期講習とか…」

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「今日は大丈夫。…っていうか、会いたかったから」

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~♪ 挿入歌「初想いDays」~

 

デートシーンでは挿入歌、これ。基本。タイミングもバッチリ。ありがとう水島精二。ありがとう夏色キセキ。スフィアのためのアニメなのでもちろん毎回挿入歌が入るわけだが、もう今回いれるんだったらここしかないだろうというところ。これからも世の中のアニメデートシーンすべてに挿入歌が流れることを祈ってやまない。

 

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「はしゃぎすぎた……。わたしは紗季ちゃん、わたしは紗季ちゃん……」
「あれ…、優香?」

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「え!?」
「ああ、ごめん。それ、優香もよくやるんだ」

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「かわいいよね」

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「えっ……!かわっ……!」

 

良い。
OP明けで貴史と話しているときの優香を振り返っていただければラムネを頬に当てているのがわかる。

 

デートも終わりの時間だ。夕暮れ時、いい雰囲気だが……。

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「貴史くん…あっ」
「いいよ名前で」

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「あの、じゃあわたしのことも…!」

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「……!」
「わたしのことも、名前で……」

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「紗季って呼んでください」

 

そう、いま貴史の目の前にいるのは「優香」ではなく、「紗季」なのだ。名前で思い出す。良い脚本だ……。

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ふだん元気な女の子が泣いている画は最高。

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貴史も雰囲気におされ、あわや、というところで

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凛子(身体は夏海)が乱入して連れ去ってしまう。

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「ごめんね、邪魔しちゃった。応援するって言ったのに…」

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「ううん、もういいんだ。…ありがと」

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これで身体が元通りに。元に戻った紗季は貴史にお断りのメールを送る。

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「こわ!絵文字も無しって!」
「お断りのメールにハートとかつけてどうすんのよ」

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「ハハハハ…。わたし、紗季には一生なれそうもないや」

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「当たり前でしょ、優香は優香なんだから」
「……?」

「よ~しコンビニまで競争!負けたらジュースおごり!」

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「待って!…なにこれ、ぜんぜん走れない~」

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「優香、体力な~い!」

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「うるさ~い!待って~」

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夏色キセキはいつだってLAWSONから始まってLAWSONで終わる。明日4人が集まるのも、きっとこのLAWSONのベンチだ。

 

 

と、 #4 「ユカまっしぐら」を全編まるまる紹介してしまったが、いかがだったろうか。
アニメファンの間ではあまり大きな評価をされているのを見かけない『夏色キセキ』だが、 #4 は脚本、絵コンテ・演出ともに見どころのある回に仕上がっており、入れ替わりにおけるキャストの演技も手間のかかった方法で作り出されている。細やかな演出も本作のテーマであると勝手に思っている「再認識」につながっている。わかりやすく夏色キセキの良さが提示される名エピソードだ。

さらに突っ込んで勝手に解釈してしまうと、『夏色キセキ』は 今回の #4 や #6 では自分と他人を再認識し、  #10 において擬似的なタイムスリップをして、 #12 では8月26日を何回もループする。昔を見つめなおす、8月26日という自分たちの過ぎ去った可能性を振り返り、また繰りかえす。中学生という自我が不安定な時期の女の子たちの心情がそのまま作中の「キセキ」として表れ、ストーリーとして描かれている。成長の物語でもあり、変わらないものを示す物語でもある。変わらないもの、それは作品を通して「再認識」され続けた4人の友情だろう。

 

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主にアニメとゲームとオカルト関連の記事を書きます。
チャームポイントはとびきりのSmileです。よろしくお願いします。
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