躍動する機械への再構築―SCHAFT『ULTRA』

2016年 1月20日にリリースされた、BUCK-TICK今井寿SOFT BALLET藤井麻輝からなるユニットSCHAFT(シャフト)の2ndアルバム『ULTRA』

前作からおよそ21年の歳月を経ての新譜。すごいですね。
結論から言って”良かった”ので、喜々として感想をこちらに記します。

schaft_steampunk


■これまでのシャフト

SCHAFTの結成は91年まで遡ります。コンピレーション盤『DANCE 2 NOISE』に楽曲“nicht-titel”で参加。

94年には、全面前線で参加することになるPIGレイモンド・ワッツやその他国内外から多数ゲストを迎えて制作されたフルアルバム『Switchblade』とミックス盤『Switch』を発表。

今井寿、藤井麻輝、止めにレイモンド・ワッツのラインナップからも読みとれるように、その内容はいわゆるインダストリアル・ロックを中心としたものです。とりわけ作曲・編曲、メインボーカルまでも務めたレイモンド・ワッツの存在は大きく、プリミティブなインダストリアル・ビートとブラスバンド/管弦楽がクロスオーバーするFoetusPIGの流れを汲んだスタイル、さらにダークアンビエントや東洋音楽がミックスされたエポックメイキングな仕上がりとなりました。

それから歳月を跨ぎ、hide急逝後の1999年に発表されたzilchのリミックス盤『BastardEYES』へSCHAFT名義で参加したのを最後に、音沙汰がなくなります。

その後、今井寿はBUCK-TICK・SCHWEIN・Lucy、藤井麻輝はSOFT BALLET・睡蓮・minus(-)など、各々の活動をしていきますが……。


■突然の復活

2015年秋、突如として公式サイト・Twitter・Facebookの開設がアナウンスされました。

果たしてしてSCHAFTより発表されたのは、過去作品をリマスターしたアーカイブ集、そして新作『ULTRA』のリリースとツアーの情報でした。

続報として公開されたレコーディングおよびツアーのメンバーは以下の通り。

Vo: YO-ROW(GARI)
Ba: 上田剛士(AA=/THE MAD CAPSULE MARKETS)
Dr: yukihiro(acid android/L’Arc~en~Ciel)

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公開されたビジュアルイメージ。めちゃくちゃシブい

たまらないですね。

メンバーとの親交はもとより、前作『Switchblade』でレコーディングに参加した実績もある上田剛士

また上田剛士とも縁のあるyukihiroラルクリスナーとしては、かねてよりドラマーとしてインダストリアル音楽方面で本領を発揮して欲しいと願っていたのが、理想的な形で実現されました。

2008年にacid android睡蓮Lucyの出演した音楽と人主催のイベント”MUSIC & PEOPLE”のアンコール・セッションにおいて、今井寿・藤井麻輝にyukihiroを加えた編成でSCHAFTの”THE Hero IN Side”が披露されています(見たかった)。

そしてメンバーの中ではいくらか世代が下がると思われるYOW-ROW(ヨウイチロウ ※ヨウロウではありません)。恥ずかしながらほとんど存じ上げなかったので調べてみると、過去にはBUCK-TICKのマニピュレーター、藤井麻輝との限定的なユニットでの活動、イベントでのAA=との共演などをしているようです。
今回SCHAFTが追求したのは“バンド”らしさであり、上記面々は非常に信頼の置ける人選がなされたことが伺えます。

前置きが長くなりましたが、その中身を聴いた感想は、

音が良い!ミックスが!良い!!音がきめ細かい!!!

ラウド!エレクトロ!ゴリゴリオーバードライブなベース音!!打ち付けられるドラムの金属感!!!!

……以上です。


■ULTRAとは?

前作と比べエレクトロになったといっても、その感触はあまりイマドキのものではありませんね。藤井麻輝によればレコーディングも古い機材が用いられたそうですが。本作のタイトル『ULTRA』はDepeche Modeの同タイトル『ULTRA』(1997年作品)を連想させます。そしてその内容もまさに、この頃のDepeche Mode的で、ヒップホップやダブを消化したモダンさと、怪しく仄暗い電子音の響きがあります。

新譜に至るまでSCHAFTをインダストリアル・ロック ユニットと紹介されるのをしばしば目にしますが、トリップホップの耳触りもあり、今回は単にインダストリアルというだけでなく、Depeche Mode『ULTRA』のラウド版というような印象も受けました。


『Switchblade』『ULTRA』、全体像を並べるとまったく性質の異なるものであるということがわかります。

『Switchblade』 は、 その当時にやりたいことのアイデアが詰め込まれており、レイモンド関連以外はトラックがそれぞれに独立した”作品集”という趣。

一方『ULTRA』は、バンドとして表現することがはっきりと見据えられたコンセプトのようなものが見えてきます。(インタビューでは「スチームパンク」というキーワードが出てきます)
今のSCHAFTってどんなバンド?というのがわかりやすい。

シャウトもラップもメロディも柔軟にこなすYOW-ROWは、前作のメインボーカルであるレイモンド・ワッツと比べられてしまうのは避けられない事でしょう。しかし、ボーカルだけを切り取って引き合いに出すのはあまりに浅はか。
両作品とも”歌もの”であることには違いありませんが、「メロディを歌わないがボーカリストとして象徴的にフィーチャーされているレイモンド」「メロディを歌うがエフェクトがかけられトラックを際立たせるYOW-ROW」と、そもそもの立ち位置と手法が異なります。

つまりYOW-ROWはボーカルでありながら、主役のポジションに配置されているわけではないという見方です。歌であって歌でない。彼の声の存在自体が楽器のようである、あるいはサンプラーのようである(YOW-ROWの器用さが成せるワザ)と解釈します。

主役がボーカルでないのなら、いったい何が主役なのか?そこで私は『ULTRA』の顔はベースとドラムなのだと確信しています。


■リズムトラックの為の楽曲

本作はまず、上田剛士・yukihiroの愛好者であればマストです

“インダストリアル”、と印象付ける要素があるとすれば、幾何学的に正確なドラムプレイとその硬質で金属的な音響に依拠するところが大きいでしょう。

ベースもまさに”上田剛士”で、THE MAD CAPSULE MARKETS時代から一貫しています。とにかく常時過剰な”歪み”と、無骨で重機を振り回したかのような大胆さは、演奏技術に裏付けられ成立しています。先述のように上田剛士は前作でレコーディングに参加していますが、今回ドラムもベースもより前面に配置したミックスが施されており、プレイヤーの” 個”を尊重している事が察せられます。

ひたすら無感情なマシーンビートに、ボトムを支える肉体感・主張性ある躍動感を持つベースとの組み合 わせは、骨格と筋肉、互いに空いているスペースを補完しあう理想的なバンド形のようで絶妙。そしてそれらのバランスが、緻密な音響処理によって形作られているのはまちがいありません。とにかく微細な音のこだわりを感じます。この点においては最新テクノロジーの完全勝利といった具合。

楽器陣のサウンド・プロダクションとして、全編通しである程度セッティングを流用していると見られます。サウンドに一貫性を持たせ、プレイヤーの個性にそれぞれフォーカスを当てることで、思惑通り”バンド感”を打ち出すことに成功しており、サポートメンバーも名目上の”サポート”に留まらない貢献と存在感を発揮しています。


遊び心もたびたび見られます。冒頭の“The loud engine”においてはいきなりMinistry“N.W.O.”のギターリフに頭をぶん殴られました。この曲はほとんどサンプリングとループだけ構築されていますね。素材が複雑に積み重ねられた、カオティックでハードコアなトラックですが、終盤ではシンセのオーケストレーションによるドラマティックな展開が見られ、単なるオープニングSEのようなものではない、サンプリングコラージュの塊とでもいうべき会心の出来(気に入りました)。アウトロからシームレスで自然に雪崩れ込むリードトラック“Vice”へのつなぎ方も秀逸で、緊張感あるイントロのブレイクリフへのスイッチに意識も切り替えられます。

“ReVive”では前作の“Broken English”を彷彿とさせる演説のサンプリングという懐かしみある演出(ヒトラーかゲッベルスでしょうか)。

そしてNine Inch Nailsの“Hurt”のノイズ音がサンプリングされている“魁”。他にいくつか収録されているダンサンブルでポップな楽曲群も意外でしたが、特にこの曲の旋律と音色のエモーションはSCHAFTにおいて一番の不意打ちでした。”Hurt”からのサンプリングですが、Nine Inch Nailsで言えばむしろ後年の作品である『Year Zero』の終末感に日本的な旋律で応えたような味わい。本作でもさまざまな表現手法をとっているYOW-ROWですが、静謐で感情を見せない歌声は俯瞰的で独特な存在感をあらわし、ある意味では彼が一番に映えている曲ではないでしょうか。

そういえば本作のアートワークを担当したのは、Nine Inch Nailsの中心人物トレント・レズナーの別プロジェクトHow To Destroy Angelsのジャケットも手がけたMark Weaverですね。レイアウトやモチーフが似ています。

全体的にサンプリングネタは他にも散らばっているような気がします。(心当たりある方はご一報ください)


再び組み上げられ蘇ったSCHAFTはあらゆる点でかつてのSCHAFTと、言葉通りの意味で存在そのものが異なるため、過去の作品を知らない方がそのまま本作を手にとって何の差支えもありません。BUCK-TICKもSOFT BALLETも知っている必要はありません。2016年に作品を引っさげた、SCHAFTというただ一つのバンドとして捉えるだけで充分です。

またこの『ULTRA』には、少なくとも前作『Switchblade』のようなアヴァンギャルド/エクスペリメンタルを織り交ぜた意欲性や革新性といったものはないかもしれませんが、洗練されたデザインの美意識、研ぎ澄まされた匠の仕上がりがそこにはあります。

願わくば、バンドサウンドの完成されたこのシステムは、しばらくの間稼働し続けてほしいものです。

 


http://schaft2016.com/

参考:
一度は音楽業界と決別した藤井麻輝、復帰後の怒濤の活動を語る
SCHAFT | 激ロック インタビュー 

 

鳩田 誠司

鳩田 誠司

ヴィジュアル系バンドとガールズ・ラブ作品への嗜好に傾倒後、失業。近年労働に復帰しました。
鳩田 誠司

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