「偉大なるマンネリ映画」としての原点回帰 〜『007 SPECTRE』〜


007シリーズ新作である。高評価を得た前作『スカイフォール』から3年ぶり。新生00セクション、新型アストンマーチン、そして新たな敵「スペクター」…話題性抜群の世界的人気シリーズの最新作に世界が熱狂!…するはずだった。が

非常に無念ですがスターウォーズ新作に完全に喰われてしまいました!

…仕方ない。相手が悪すぎた。だってスターウォーズだもん。みんな大好きだもんね、スターウォーズ。

とはいえ今作『スペクター』が個人的にイチオシの007作品なので是非スターウォーズの前に本作の方もチェックしていただきたいのである。その理由は”原点回帰”です。

いやいや、もうね、007は何回原点回帰してるんだよって話なんですよ。『リビング・デイライツ』も『ゴールデン・アイ』も『カジノ・ロワイヤル』もシリアスかつ重厚なストーリーを下地とした原点回帰的な作品で、確かに面白かったけど「おまえ毎作原点回帰してるじゃねーか」って突っ込んでしまいましたよ。ただ今作で私が感じた”原点回帰”はこれまでの「シリアスなスパイアクションとしての007」ではありません。「ちょっとおバカでかっこいい、偉大なマンネリ映画007」としての”原点回帰”なのです。

※ネタバレ含みますので未見の方はご注意ください

・”シリアススパイアクション”としての”原点回帰”を果たした007

danniel

近年、というかダニエル・クレイグが6代目ボンドとなって以降の007はシリアスで重厚なストーリーとクールなアクションを兼ね備えた「かっこいいスパイアクション」の映画作品として確実に人気を獲得してきました。「昔のは全く観たことないけど、クレイグ以降の007は観たし好き」という方も多いのではないでしょうか。

しかし元来、『007』という映画は

女!酒!スーツ!車!洒落!かっこいい!

といった、いわば旧世代的とも言える男のロマンを片っぱしから詰め合わせたという点が良くも悪くも全てともいえる作品でした(とかいうと怒られそうですが)。脚本に関しても「偉大なるマンネリ」とまで言われるほど基本的には同じような展開のものだったのです。

というか、ファン側もそんな「007」を望んでいたのだと思います。仕立てた最高級スーツに身を包んだ秘密諜報員ジェームズ・ボンドが最高級のスポーツカーを乗り回し、最高の女と最高の酒を愉しみながらも時に熱く、時にクールに悪をやっつける…これが007という映画の醍醐味でありました。

しかし20作目『ダイ・アナザー・デイ』ではどう考えてもギャグにしか見えないCGアクションやら、遂にステルスで消えてしまうボンドカーやら、挙句には主題歌を歌うだけでなく出演までしたマドンナがゴールデンラズベリー賞を受賞してしまう体たらくぶりを見せてしまいます。

そんな中で製作された21作目『カジノ・ロワイヤル』は新たなボンド役に肉体派のダニエル・クレイグを添え、脚本も原作者イアン・フラミングスの第1作に忠実ながらもアップデートを施したシリアスなものとし、若々しいアクションとともに今までの007世界の設定を全てリセットすることで”新米スパイ”としてのボンドを描ききった、まさに完璧ともいえる”原点回帰”を果たした名作となったのです。

  
さらにそこからは今までのボンドシリーズではある種「タブー」とも思われていた続き物として『慰めの報酬』『スカイフォール』が続けて公開。アカデミー監督サム・メンデスがメガホンをとった『スカイフォール』に至っては、確固たる地位と人気を獲得していた”M”の死と、今までほとんど明かされることのなかった”ボンドの過去”という、またもタブーとも言えるシリーズとしては踏み込んだ内容を見事に描ききり高評価を得ました。こうした経緯を経て007は「人気スパイアクション映画」として復活、まさに「JAMES BOND WILL RETURN」を体現して見せたのでした。

・偉大なるマンネリへの原点回帰『スペクター』

181538

さて前置きが長くなりましたが今回の新作『スペクター』です。

オープニングでのガンバレルシークェンスの復活、新型アストンマーチンによるカーチェイス、雪山での戦い、列車での敵スパイとの格闘、そしてエンディング…と、まさに過去007シリーズの”お約束”を踏襲した内容なわけです。が、そういったマニアをニヤリとさせる「過去作へのコテコテなオマージュ」なんてことは毎作やっているわけで取り立てて珍しくもありません。これ以外に個人的に007感満点だったところが本作を推したい理由なのです。
・ボンド、任務から追放されすぎ問題

開幕早々勝手な行動で派手に暴れまわったジェームズ・ボンドさんは上司Mから「君を任務から永久的に追放する」と宣言されてしまいます。

こいついっつも任務から追放されてんな。

『消されたライセンス』では自ら00ナンバーを捨て友人のために戦ったりもしていましたが、もはや毎作任務から外されてるんじゃねえのかこいつは。前作『スカイフォール』でもそんな下りなかったか?

とにかく「任務から追放されるジェームズ・ボンド」という点から話がスタートするのはもう毎作のお約束な訳で、この辺から「偉大なマンネリ映画」としての007を感じさせてくれました。

・最後は必ずぶっ壊れるボンドカー

timthumb

ボンドカーは一度ボンドが乗ったら最後、無事な状態では帰ってこないのがお決まりなのです。

今までも大抵敵の手で破壊されたり、ヒイロ・ユイが乗るガンダムウイングばりに自爆して木っ端微塵になってきましたが、今作でもボンドは勝手に持ち出したアストンマーチンDB10をカーチェイスで散々に乗り回した挙句、川底に沈めて平然と帰っていくのであった。

製作者のQは作中で「たかが5億5000万程度の車だ」と言っていたが、明らかに若干怒っていた(というか呆れていた)気がする。とはいえ007ファンはボンドカーを法定速度で丁寧に乗り、ちゃんと帰って駐車するシーンなんて見たくないのです。ボンドが一度乗った以上、徹底的に乗り回し破壊されてこそのボンドカーなのだ。

・よくわからんけどデカくて強い敵のスパイ

image (1)

今作は敵組織「スペクター」のボスは果たして何者なのかというのも注目すべき点だが、そんなスペクターの送り込んでくる屈強な敵スパイにも注目してほしい。

シリーズでいうと、レッド・グラント(ロシアより愛をこめて)、オッド・ジョブ(ゴールドフィンガー)、そしてなにより無敵の大男ジョーズ(私を愛したスパイ〜ムーンレイカー)などが名敵スパイとして登場してきましたが、今作でもやたらガタイの良い敵スパイが登場する。

何が凄いってこの敵キャラ(ミスターヒンクス)、00ナンバーのスパイにでも余裕でなれそうなくらい器用である。ボンドのアストンマーチンをカッコよすぎるジャガーで見事に追い回し、雪山ではランドローバーで華麗に山を下り、ボンドとの死闘を繰り広げては不死身なのかというほど毎度毎度復活してくる。そうそうたる英国車を華麗に乗りこなすあたり「こいつ世が世なら00ナンバーのエージェントなんじゃないのか?」と思えるほどだ。

の、割にあっさりと物語から退場してしまったりするのだがどう考えても生きている感じで消えていったので(この辺りはやや釈然としなかったが)次作以降でまた復活したりしないだろうかと期待していたりしています。
…とまあ所謂「過去作へのオマージュ」に止まらない「あーあるある」となる感じの007的要素が本作には詰め込まれていたわけです。
・007を丁寧に描ききった良作。

いち映画として、あるいは007シリーズとしての出来に関しては『カジノロワイヤル』『スカイフォール』よりは少し劣るかなぁ、という正直な感想です。ただ勢揃いした00セクション、そしてスペクターの復活という事で「いつもの定番007を丁寧に作りきった」という意味でなかなかに良い出来だったと思います。相変わらずアクションシーンは見応えあるし、画は綺麗。少し老いたダニエル・クレイグも今までの若々しい感じから落ち着いて貫禄のあるスパイとして画面映えしてた。

ベタと言えばベタですが「良質なスパイアクション映画」をお求めならばオススメできる。何より往年のファンには「やっぱり007ってこんな感じだよなー」とニコニコしながら観られること間違いなし。だってボンドが突然仕事辞めて農業しだしたり、歌って踊るミュージカルになっりしたらみんな嫌でしょ?マンネリと言ってしまえばそれまでだけど、みんなが求めていて、観て安心できる作品を作るのは決して簡単ではないと思います。そんなわけで、今作『スペクター』を私は「偉大なマンネリズムの復活」作だと感じたわけです。

・最後に

本作の劇場版翻訳を担当したのは映画ファンには何かとお馴染み戸田奈津子御代です。

設定の濃い映画の翻訳では細かい数字を間違えたり「ローカル星人」などの珍訳でファンを賑わせ(怒らせ)てきた奈津子さんですが、今作は特に面倒な用語もないので全体としてそれほど違和感のないお仕事でした。

が、落ち着いたシーンで可愛らしいボンドガール(レア・セドゥ)が手で拳銃を作りボンドを撃つ真似をするシーンの対訳が「ズドン」というのは如何なものなのか。「ズドン」て。あの可愛いレア・セドゥがそんな昭和のおばさんみたいな効果音口で言うはすがないでしょ。

そんな愛おしい戸田奈津子翻訳にも注目しつつ、「偉大なるマンネリ」への原点回帰を果たした『007 スペクター』を是非劇場でどうぞ。


Tags:
No Responses