藤沢周平×仲代達矢 『果し合い』を観た! ~老人時代劇について~

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藤沢周平原作 仲代達矢主演『果し合い』を見てきました。

特別鑑賞券を友人から譲ってもらったので東劇に観に行きましたが、これがなかなか貴重な体験でした。

放送日程はスカパーか時代劇専門チャンネルなりで調べていただくとして……。

 


 

藤沢周平の劇場時代劇(あるいはTV長編)は、2002年公開の『たそがれ清兵衛』や『蝉しぐれ』、『武士の一分』などに代表されるように剣の達人である田舎の下級武士が悲恋や未練を断ち切りつつ一騎打ち、という一連の流れがよく使われています。

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余談だが、海外版のタイトルは『The Twilight Samurai』だ

 

身もふたもない書き方ですが、貶しているわけではなく本当にだいたいそうなのです。
切ない恋の話や下級武士の悲哀を腕力でどうにかする、ほろ苦エンタメといった感じでしょうか。

で、この『果し合い』もそんな感じです。
しかし、今作の特徴でありキモは何と言っても主人公が老人だということ。
そして、剣の達人である田舎の下級武士が悲恋や未練を断ち切りつつ一騎打ちに失敗して無為な人生を送っていた老人がもう一度奮起する、という点でしょう。

 

原作小説はこちら




本来であればスカパーや時代劇専門チャンネルで放映される作品を、劇場で観て感じたことがあります。

観客にお年寄りが多い! 

なので、お年寄りの笑うポイント、泣くポイントを直接見聞きすることができました。
本来、家で『果し合い』を観るであろうお年寄りを劇場で確認することができたような気がして、とてもよかったです。
劇場では「無駄飯食らいね」と皮肉を言う家族に対して主人公がうまく言い返すと笑い声が起こり、過去を振り返るシーンではすすり泣く声がかなり聞こえました。

 

そんでもって……。

お年寄りは働いていない→家にいることが多い→暇だからケーブルテレビに加入する→時代劇専門チャンネルはケーブルテレビのなかでも加入者がトップクラス→老人加入者のおかげで時代劇専門チャンネルやスカパーはお金がある→だから、メイン視聴者である老人向けにオリジナル時代劇を作った。

上記の考えのもと『果し合い』は老人が特に楽しめるように作っているだろう、という先入観(邪推)を持つに至りました。
もちろん、20代の俺でも『果し合い』は楽しめました。なんといっても名優仲代達矢の今の姿を見たい! という思いが強かったからです。

 


 

それはそうとして……。
老人の思い描く桃源郷、老人の生活や環境に密接に結び付いたファンタジーとして『果し合い』を見ていきます。
「なにもすべての視聴者が、主人公と視聴者自身を同一化して共感して作品を見ているわけではないだろう」と思われる方もいるかもしれませんが、「ある程度は主人公と視聴者の境遇がかぶっているからこそ湧き上がる感情もあるだろう」というスタンスを取ります。

 

主人公の年齢はそれすなわち作品の視聴者層に直結していることがよくあります。
そうなると視聴者がさらに感情移入しやすいように、主人公を取り巻く環境も形作られたります。

今さら言うべきことではありませんが、ティーンズ向けなら学生が主人公、学園が舞台だったりするでしょう。

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主人公・庄司左之助(左)と、左之助の大姪の美也(右)演じるのは仲代達矢と桜庭ななみ(めちゃくちゃかわいい)

今作の主人公、庄司左之助は兄の息子(甥)に養われながら過ごす、早い話が無職の老人です。

左之助は同居している甥や姪から厄介者扱いされながら余生を過ごしています。家族が集まる食卓では、左之助は徹底的にバカにされます。
そのかわり。大姪の美也だけが懐いてくれています。そして、左之助は大姪・美也を溺愛し、彼女がより良い未来を選べるように導きます。大姪・美也は左之助に全幅の信頼を寄せ、左之助に従います。

この姿は、孫に慕われる祖父や祖母であり、素直な孫に世話を焼いて感謝されたいという視聴者=老人の思い描く気持ちの良い姿(ファンタジー)ではないでしょうか。
年長者が年少者を説教したり、進路に口出しする姿はうっとおしく、年少者を支配しようとしているようにも受け取られてしまいます。なので、年長者はしばしば年少者の反感を買ったりします。
しかし、年長者は己の経験に基づいて、年長者の持ちうる最良の選択を好意的に提示しているだけです。
こんな例えをするのはなんですが「こういう風にゲームを攻略しろよ。そしたらクリアできるから、俺の言うとおりにしろ」みたいなもんです。決して年少者の破滅を願って嘘の情報を流しているつもりではないのです。

 


 

少年が主人公だと、どうしても過去を描くことが難しくなります。高校生や大学生に過去を持たせても、現実とかけ離れたものになってしまいます。龍の血を引く闇の一族の末裔だったりとか、超能力者だったりとか、すさまじい戦闘経験があるとか。
現実味のある過去を持たせても、せいぜい受験に失敗したとか失恋したとか、学校生活がうまくいかなかったとか親が死んだとかそんな感じです。
現実的な過去を持たせると、どうしても主人公よりも年齢が上の視聴者は「うわっ、かわいそうだなー」とか「わかるよ。俺も学生のときはそう思っていた、だけどね……」くらいしか思わないと思います。

『果し合い』の庄司左之助には二人の女性との過去があります。
青年期に身を焦がすような恋をしたけれど報われなかった過去。
その後、なんとなく結ばれてそのうち情が生まれたが、相手が死別してしまったという過去。

老人が主人公だから持てる過去ってあると思うんですよね。
恋愛→失恋→結婚→出産→死別の経験は年齢が上がれば上がるほど確率も上がると思います。
老人が観ることを見越して、老人を主人公にしたからこそなしえた“おいしい”ドラマだと思います。

『果し合い』の主人公庄司左之助が過去を振り返るシーンでは劇場のお年寄りたちがめちゃくちゃ泣いていました。

 

相原コージと竹熊健太郎の『サルでも描けるまんが教室』でも「老人漫画」の出現について言及されていました。時代劇というジャンルならなおさらそうだろうなと思います。
そのうち地上波でも、老人ホームを舞台にマドンナババアを取り合う恋愛ドラマが出てくるかもしれないですね。

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そして大事なのはやっぱりエンタメ要素。今回は暴力です。

私が特に気持ち良いな、感動したな、と思ったシーンがあります。
左之助が美也(大姪)に累を及ぼそうとする若侍を斬り殺した後に、美也に「ワシが仕留めたぁ~。あはっ、あはは……」と誇らしげに笑うシーンでした。

だってヤバくない? おじいちゃんが人殺して満足げだし、その報告を聞いた大姪は感極まって「ありがとうございます!」って泣き出すんだよ!? 最高に暴力的で気持ちよかった!!!!!!!!!!!!

なんというか『グラン・トリノ』のラストが変更されて、悪党を撃ち殺してハッピーエンドになったような感じです。

もし今後、バイオレンス老人が主人公の時代劇が作られるならいいのになと思いました。

家族からないがしろにされている老人が過去後悔をして(しかも剣術マスター)、かわいい孫(作中では大姪)を守る。
これが老人の思い描く最高に気持ちいい主人公なのかな、と思いました。

 

なんだか取り留めのない話になってしまいましたね。
俺はうがった見方をしてしまったけど『果し合い』はいい作品です。

過去を悔いる老人が、同じ轍を若い家族に踏ませないために走りだす姿はグッとくるものがありました。

よくわかりませんが、おまけ置いておきます。


 

おまけ 時代劇老人主役一覧


 

水戸光圀 (『水戸黄門』より)

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ご存知! 水戸のご老公! 完全無欠の老人力で、もはや誰にも止められない!

年齢63~68歳
武力☆☆☆☆☆
助さん格さん、弥七お銀などなどお供込みで☆5の評価。本人も杖を使って戦える。
権力☆☆☆☆☆
前副将軍なので向かうところ敵なし。将軍との仲も良好。
知力☆☆☆☆☆
もちろん博学。政治的な立ち回りもうまい。
魅力☆☆☆☆☆
艶っぽい話はないが、身分を隠した旅先でも人間関係良好。敵(かげろうお銀)を味方にしたことも。


 

秋山小兵衛 (『剣客商売』より)

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剣の腕では天下無双! 若い嫁と権力者とのパイプを持った次世代型の老人!

年齢59~75歳
武力☆☆☆☆☆
老いてなお負け知らずの剣の腕。若さでは太刀打ちできない達人の域。
権力☆☆☆
時の権力者、老中の田沼意次と太いパイプを持っている。
知力☆☆☆☆
海千山千の猛者。また、食事や芸術などの知識が豊富。
魅力☆☆☆☆☆
40歳下(19歳)の娘と結婚するくらいお盛ん。また、友人も多数。


 

 

勘兵衛、玄夢、三四郎 (『痛快!三匹のご隠居』より)

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ついに徒党を組んだ老人たち! 息切れ、物忘れも三人なら問題なし!

年齢 三人合わせて207歳
武力☆☆☆☆
強いことに変わりはないが、息切れがひどい。
権力☆☆
玄夢が北町奉行だが、旅に出ればただのおじいさんだ。
知力☆☆☆
ボケが始まっている気配があり。
魅力☆☆☆
里見浩太郎と丹波哲郎なので。


庄司左之助(『果し合い』より)
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老人時代劇のスーパーリアル系! 一人殺せる元気があれば十分!

年齢不詳(演じる仲代達矢氏は82歳)
武力☆☆☆
若いころは城下では指折りの使い手だった。現在は一対多数では負けた。
権力☆
下級武士の家で養われている。武士としては最下層。
知力☆☆☆☆
藩校ではトップクラス。さらに囲碁の達人。
魅力☆☆☆
なんだかんだで女にはモテている。大姪にも慕われている。


 

 

火曜担当 サクセス本田

サクセス本田とフィーバー吉崎

サクセス本田とフィーバー吉崎

・火曜日担当
時代劇が大好きな無職のサクセス本田。
都内を徘徊する無職のフィーバー吉崎。
二人で一つ。
藤子不二雄のような共同アカウントです。
サクセス本田とフィーバー吉崎

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