作曲家 R・O・N ― バンビポップとその系譜たち

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はとです。

先ごろ、404numa氏による記事「影のアーティスト、アニソン作家たち」が投稿されましたね。そちらで数人の作曲家が取り上げられた中にR・O・N(ロン)という人物がいます。

 

R・O・N

作詞家・作曲家・編曲家・ボーカル・ギター・キーボード
1982年生まれ。東京都出身。幼少期をドイツ、アメリカで過ごし帰国後、2004年早稲田大学を卒業。
楽器歴はピアノに始まる。使用楽器は他にギター、ベース。
キャッチーでアーティスティックなサウンドと幅広いジャンルに対応した独特なプログラミングアレンジに定評がある。
ストリングスアレンジやブラスアレンジもこなす。自身のバンド「ROSARYHILL」でも活動中。

―VERYGOO 有限会社ベリーグー 所属アーティストページ

 

このR・O・N氏の音楽、アニメ作品関連の楽曲提供を生業とする者の中でも、とりわけアクが強く個性が色濃く打ち出されていると思われます。
それは決して風変わりな作品性があるという意味合いではなく、また提供先の世界観を破壊することなく、この人物が作った作品だと直感させるスタイルの確立性の高さがあるということに尽きます。

作品の系統では、ミクスチャーなクラブ系から簡潔なギターロックまで様々ですが、今回はR・O・Nがその根幹に大きく関わっているであろう、
新谷良子の確立したバンビポップ」に着目します。

 


 

■これがバンビポップだ!

 

しかしバンビポップとは一体・・・?

 

「バンビポップ」(=新谷さん独特の透明感のある明るさ、キュートさとパワフルさを併せ持つポップサウンド)

―キッズステーション アニぱら音楽館 ゲストインタビュー

 

なるほど……。

いささか具体性に欠けるでしょうか。

実際に聴いてみましょう。

 

「UNLOCKER!」 (2011年)

「MARCHING MONSTER」 (2009年)

「月とオルゴール」 (2009年)

 

以上、3つの動画のリンクを貼らさせていただきましたが、すでにお気づきの方もいるでしょう。

そうです、ドラマーはRaphael、riceの村田一弘です。(ヴィジュアル系です)

彼は2008年~2011年の期間に新谷良子のバックバンド PBB(Pink Bambi Band)に在籍しており、今年2015年より復帰しました。
村田一弘とR・O・N、まったく異なるシーンからの2人の共演は熱いですね。最近は内田彩のバックバンドのドラマーとしても活躍しています。

以上、声優×ヴィジュアル系事情でした。(おわり)

 

しかし少しずつバンビポップの特徴が見えてきましたか。

勿論いずれもR・O・Nによる作詞・作曲・編曲の作品です。まずは耳にした感触で印象づける、ギターロックを主体としたバンドサウンドによる統一性。
この歌手ならこういう音楽!と作風をすぐに連想させるのは良いことですね。

さて、このラインナップで言えば特に「UNLOCKER!」の楽曲構成に、R・O・Nの作品性およびバンビポップを象徴する構造が見て取れます。

リズミカルな4つ打ちと、そこから突如パンキッシュな2ビートへ突入する振れ幅のある緩急性。
サンプリングギターや電子音、ブレイクビーツを散りばめたパーカッシブなトラック。
Bメロへ至る、本来のAメロを差し替えたラップや早口でまくし立てる細やかな譜割りには、華の存在であるはずのボーカル・パートさえリズム・セクションに落とし込む制作者の確信めいた知略が伺えます。

パンク・ロック、ダンス・ポップ、ラップ……単純に言葉だけを並べると、数ある紋切りラップ・ロックや量産型4つ打ちロックの音楽にも見えるかもしれませんが、
しかしバンビポップにあるのはそれよりも、テクノ・ミーツ・パンクなP-MODELや、クラブシーンでデジタルハードコアを確立させたATARI TEENAGE RIOTなどのような、音楽要素同士が相互作用する画期的な融合性です。

そしてなんと言っても最後に重要なのは、

ボーカルの声がすごくかわいい!という点です。

ボーカル・トラックを単純に表に据えるだけではい、楽曲に溶けこませる手法はむしろキュートな女声のキャラクターそのものをより際立たせます。

 

以上のようなスタイルが、新谷良子作品におけるR・O・Nの楽曲に多数見受けられます。聞き手の方それぞれの中にバンビポップ観があるでしょうが、まさにバンビの跳ねるようなリズムを活かしたポップな音楽、それがバンビポップなのではないかと私は考えます。

新谷良子の完成された楽曲制作に携わる著名な作曲家・編曲家は多数存在しますが、中でもR・O・Nの存在はバンビポップを形成する上で極めて重要度が高いと言えるでしょう。

 

そんなR・O・N氏、残念ながら2010年を最後にバンドマスターも務めたPBBを脱退してしまいました。しかし、現在も楽曲の制作には参加し続けているようです。またそれ以上に、一度形成されたバンビポップの息吹が今なお継承されているように感じられ、これからもシンガー・新谷良子としての動向には注目していきたいです。

 

2015年 村田一弘復帰作(映像出演のみ)。c/wにはR・O・Nによる楽曲「リンガベル」も収録。 

 


 

■洗練、進化・・・これもバンビポップだ!

 

新谷良子の提唱したバンビポップですが、R・O・Nによる他の提供楽曲を並べ比べてみると、バンビポップにおける楽曲構築の方法論が応用されたものが多数確認されます。

これら、バンビポップの系譜とも言うべき作品群を8tracksにまとめました。

 

 

<track list>

01 – Melancholic Sunshine – StylipS
02 – PTWINKLE☆CHERRY PINK – 野川さくら
03 – Starlight Fortune – 佐藤聡美
04 – WAKE ME UP(^_-)b! – 中町かな (豊崎愛生), 天野咲妃 (水原薫), 久地院美華 (釘宮理恵)
05 – プレパレード ‐postparade mix‐ – 逢坂大河 (釘宮理恵), 櫛枝実乃梨 (堀江由衣), 川嶋亜美 (喜多村英梨)
06 – フラスコレーション – 逢坂大河 (釘宮理恵), 櫛枝実乃梨 (堀江由衣), 川嶋亜美 (喜多村英梨)
07 – YHA! – エーリカ・ハルトマン (野川さくら)
08 – 2 hundred over – エーリカ・ハルトマン (野川さくら)

09 – ヨロイノハート – 吉武莉華 (上坂すみれ) & 矢島美怜 (内山夕実)
10 – キリトリ線 – 小節あびる (後藤邑子)
11 – Thrilling Everyday – 高梨奈緒 (喜多村英梨)
12 – カンパネッラ – 野水いおり
13 – ロイヤルストレートフラッシュ – 水瀬伊織 (釘宮理恵)
14 – 砂時計 – アイドリング!!!
15 – L & L – 新谷良子
16 – Type-S – 新谷良子

 

「Melancholic Sunshine」「TWINKLE☆CHERRY PINK」「Starlight Fortune 」などは、前述のバンビポップの特徴を押さえたスタンダードナンバーでしょう。特に「WAKE ME UP(^_-)b!」はボーカルの掛け合いや、ボイス加工とサンプリングが緻密で一つの集大成ではないかと見ています。

リミックス作品「プレパレード ‐postparade mix‐」ではインダストリアル・ロックやソロワークスも思わせるサイバーなアレンジと、かわいらしい女性ボーカルとの取り合わせが絶妙でハイブリッドな仕上がり。

「ヨロイノハート」「カンパネッラ」は編曲のみの担当であるものの作家性は十分に滲み出ており、ともすればこちらもリミックスの趣がありますね。

「ロイヤルストレートフラッシュ」「砂時計」(こちらも編曲のみ) はギターロック要素のないダンス・ナンバーでまた毛色が異なりますが、随所に組み込まれたラテン・ビートはパーカッシブなセンスが光ります。

最後にあえて配置させていただきました新谷良子の楽曲。インド音楽やスコットランド音楽などを導入したカオティックなクロスオーバー「L & L」や、より強められたラップパートとサイケ気味なギターが絡む「Type-S 」など、自身の次なる変化を感じさせ、これもまた従来のスタンダードに対するバンビポップの系譜であると言えるかもしれません。

 


 

・新しい音に触 れた時は“こういう音はどうやって作るんだろうか?”と思ってYouTube上にある海外のHow to動画を見て、自分で試したりはしていますね。

・実際に締め切りがある中でぶっつけ本番でやっ てもたぶん無理なんですよ。ああいう音を作るにはどうするのかというのを事前に勉強して、自分なりの着こなしを準備していないとできないことだから。そう いうところはすごく大事にしていますね。

―-JUNGLE☆LIFE- インタビュー

 

ファジーな制作方法を避け、偶然性に頼りきらない研究家の性質が垣間見られますね。

おそらくバンビポップに携わる中でも、試行錯誤や培ったノウハウがあるでしょう。数々の楽曲同士に通底するスタイルがあるのは、リアルタイムに消化した知識が他の諸作品へも波及しフィードバックした結果なのではないかと推測します。

常に音への探究心を持つ彼の作品は、今後も進化を遂げて行くはずです。

 

鳩田 誠司

鳩田 誠司

ヴィジュアル系バンドとガールズ・ラブ作品への嗜好に傾倒後、失業。近年労働に復帰しました。
鳩田 誠司