虚無の街・江戸 『必殺仕業人』’76
はいはいはーい、ちゅうもーく。今から大事なことを言いいますよ~。
本当に大事なことですよ~。
2015年10月13日朝9時からテレビ埼玉で
『必殺仕業人』の再放送が開始! 平日は毎日、仕業人に会えるぞ!
ついでに、
『必殺仕業人』は第1話が一番大事だから絶対に見ろ!
どんな方法を使ってでもいいからとにかく、1話を見ろ!
必殺シリーズそのものについての大ざっぱな解説はこの記事を読んでいただくとして。
今回は、『必殺仕業人』(以下、仕業人)の紹介だ。
ついでにOPがかっこいいので観てくれ。ナレーションはダウン・タウン・ブギウギ・バンドの宇崎竜童だ。
・赤井剣之介という男
仕業人と言えば何と言っても新しい主水の仲間、赤井剣之介(中村敦夫)だ。
というか、仕業人は剣之介が主役と言ってもよいのではないだろうか。
この赤井剣之介のすごいところは、なんと第1話でこいつの物語は終了!
はっきり言ってあとのエピソード(人生)はすべて消化試合!
というか仕業人の登場人物は全員、人間的に成長する伸びしろが一切ナシ!
赤井剣之介のキャラクター設定はこうだ。
普段は女房のお歌(中尾ミエ)と神社で大道芸をして日銭を稼ごうとしているが、まったく儲かっていない(顔の白塗りも大道芸用)。お歌も生活のために万引きなどをしている。

お歌が琵琶をかき鳴らして唄い、剣之介が大刀居合抜きを披露。ぜんぜん面白くないし、儲からない。
生活はどん底でほとんど乞食同然!

群馬県庁、ではなく赤井剣之介とお歌の住居。剣之介が暴れると家は壊れる。
そもそも赤井剣之介という男、地方の上級藩士(イケてる侍)だったらしいのだが、女旅芸人のお歌に一目ぼれ。
同僚を斬り殺し許嫁も放り出して、お歌と手に手を取っての逃亡生活のすえに江戸に流れ着いたという。
お歌と剣之介はさながらボニーとクライドのような、デカダン犯罪者カップルだ。

中尾ミエ演じるお歌(かわいい)。
そんなどうしようもない剣之介とお歌だが、一話から初対面の主水に「金をくれ、殺人の仕事をくれ」と必死のコールを浴びせかける。

「あの……。金かせ!」

「金くれ。なんも食ってねえんだ」
そんな剣之介の初めての殺害対象は、なんとかつての許嫁だった。

立派な悪女になった剣之介の元許嫁(安田道代)。
仕業人の第一話は、剣之介が過去の因縁(元許嫁)と決別して、現在愛している女を選択して勝ちとる話だ。
はっきり言って最終話のようなシナリオであり、物語としてはこれ以上のゴールはないと思う。
2話からの仕業人は、鬼を倒した後の桃太郎の話といったところだろうか。
過去の因縁を絶ち切り、すべてを終わらせたのだから、なみなみならぬ感情があるだろう。
そんな赤井剣之介が許嫁殺害後に発したセリフは
「それにしてももっと金がほしいな」
であった。
えっ!? もっとおセンチなこと言わないの!? と意表を突く鋭い一言である。
これ以降の赤井剣之介とお歌は将来の展望も何もなく、生活苦から殺し屋稼業という日々に埋没していくこととなる。
そして、仕業人と言う作品自体も、最下層の人非人が仕方なく肩を寄せ合っているやるせない雰囲気で充満するようになる。
・仕業人の特徴は何と言っても、荒みきった雰囲気!
前作の『必殺仕置屋稼業』が、冷徹な殺人マシーンである市松が徐々に人の情を取り戻し、仲間との絆を深める話だった。さわやかなハッピーエンドといってもいい。
対して、仕業人にはそういうものが一切ない。
主水の「おれは誰も信用しちゃいねえ。(中略)だから仲間がほしいんじゃねえか」のセリフの通り、殺し屋連中は互いに脛に傷持つ身、渋々ながら身を寄せ合って、金を稼いでいくしかないのである。
BGMも弦楽器中心の、もの悲しいものに変わった。
そのものズバリ「虚無の街・江戸」なんてタイトルのBGMまである。
全然関係ないが、好きなBGMを載せておく。
荒木一郎の歌う挿入歌「西陽のあたる部屋」がよりいっそう虚無感を引き立てる。
荒んだ雰囲気は前作の『必殺仕置屋稼業』が比較的きらびやかな雰囲気だったのと対照的だ。
やはり、沖雅也がいないからだろうか? まあそれは冗談だとして。
ちなみに、仕業人は『必殺仕置屋稼業』の直接の続編だ。
仕置屋稼業と仕業人は間を開けず一年間ぶっ続けで放送された。

『必殺仕置屋稼業』の殺人マシーン・市松(沖雅也)(イケメン)
前作の仕置屋稼業では主人公のアジトが銭湯で、燃え盛る釜の炎の前で集合していたのだが、今作のアジトは洗濯屋だ。なんと、今までの戦闘のセットが撮影中に出火、全焼してしまったのだ(DVDBOXの解説書より)。
真冬のロケの中、水をバシャバシャ浴びる捨三(渡辺篤史)も寒々しくつらそうだ。

角刈りで短パンなのでゲイっぽい捨三。
・主水について
仕置屋で家を増築、仕事でも出世したのもつかの間、最終回で左遷されて牢屋敷同心(奉行所でも最低ランク)になってしまった主水。
髪も荒れて、着ている服もみすぼらしくなった。襟巻を口に巻いた姿も今作からの登場だ。
酒を飲まない(職場の宴会は除く)設定もなくなり、酒を飲むようになった。
これは番組スポンサーの酒造メーカーの意向だったのだが(DVDブックレットより)、うまく物語にも作用していると言える。
主水のファッションも変わった。同心特有のイケてるファッションである「巻き羽織」も今作ではしていない。

内職で嫁と姑が作った傘を売るついでに副業で人も殺す。
とうとう傘張りの内職などもする始末。最下層感MAXだ。
・総評
作品を通して暗い。が1話1話の出来の良さは折り紙つき。
殺し屋チームの人間的な成長がほとんど見られず、どこか白けた雰囲気も、ドライでハードボイルドな印象を与えている。
仕事屋稼業と仕置屋稼業と違い、だらだらと観るのにちょうどいい。
力を抜いて退廃的な楽しみ方の出来る良作だ。
火曜担当・サクセス本田
サクセス本田とフィーバー吉崎
都内を徘徊する無職のフィーバー吉崎。
二人で一つ。
藤子不二雄のような共同アカウントです。
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