『007』はもう古い!?映画『キングスマン』は英国スパイ映画の新たなスタンダートとなるか。

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現在公開中の英国紳士スパイ映画『キングスマン』。私も鑑賞しましたが大変痛快で満足できる作品でした。さてこの作品の魅力はというと突飛で爽快な脚本であったり、キレのあるアクションシーンであったり、どんぴしゃなキャスティングであったりと色々あると思います…が、なにより劇中随所に見られる「英国文化(とくに007シリーズ)への熱い愛情(と歪んだ思い)」だと個人的には思っています!そんな『キングスマン』で随所に見られる熱い英国愛に関して、とくにファッションと007シリーズへのオマージュを中心に書きたいと思います。

…と始めたいところだったのですが、こちらの記事(「映画「キングスマン」をファッションから考える」)で早くも作中のファッションに関してかなり詳しく書かれており「やべえ!先越された!」と思わず悔しがってしまいました。なので今回は他の既出の記事やブログで書かれている事と重複する点も多くありますが、私の熱い英国愛で乗り切ろうと思います(?)

※ネタバレを含みますので気になる方はご注意を…

・紳士服だけじゃない!英国若者ファッション。

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上:ロンズデールのトラックジャケット

下:フレッドペリーのポロシャツ

冒頭のシーンで主人公のエグジーと友人が昼からパブで酒を飲んでいるシーンがある。この時に黒人の青年が着ているのはロンズデールのトラックジャケット…

はい!!!これもう完っっ全にイギリス!!!!!

パブにいる黒人の青年がロンズデールのトラックジャケット着てるなんてね、イギリス以外ありえないんですよ(ド偏見)。ロンズデールはネオモッズのファッションアイテムとしても知られるイギリスのボクシングブランド。更にこのシーンではないが主人公エグジーは私服としてフレッドペリーのポロアディダスのアウター、更にジェレミースコット×アディダスのスニーカーなんて履いていたりする。

はい!!!これももう完っっ全にイギリス!!!!

というか”今時のロンドンの若者”スタイルにコテコテに忠実なファッションと言えます。フレッドペリーもアディダスもイギリスの若者に手が届く価格帯でストリート的にカジュアルに着こなせる鉄板ブランドなのです。特にこのシーンで昼間のパブで酒を飲んでいる、おそらくロクに仕事もしていないであろう若者が着ているというあたりに限りなく今のロンドンのリアルな若者ファッションが感じられる。触れ込みとしては紳士とスーツが英国的要素として推されていたが、若者のカジュアルのファッションにもこの気合の入りよう。この作品の英国に対する思いが並ではない事が分かりました。もうこの時点で自分的には期待値がマックスまで上がっていたわけです。

※イギリスの若者ファッションカルチャーについてはこちら(音楽×ファッションのカルチャー論 in UK)の記事で以前書いたので良かったらどうぞ。

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これはアディダス×ジェレミー・スコットのコラボアイテム。

 

・スーツは現代の鎧だ

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実在する紳士服の聖地、サヴィル・ロウ

さて、本作のあらすじは「ロンドンのサヴィル・ロウにある高級テーラー”キングスマン”、その実態は世界で暗躍するスパイ組織だった…」。もうこのあらすじだけで何リットルかの鼻血が出てしまいそうですね。サヴィル・ロウとはロンドンにあるオーダーメイド・スーツの聖地。「007」シリーズのジェームズ・ボンドが着ているスーツもここで仕立てられているという設定になっています。そんなサヴィル・ロウにあるテーラー”キングスマン”が実はスパイ組織でしたというのが今作の大まかな話。コリン・ファースやマイケル・ケインといった英国を代表する役者たちが華麗にスーツを着こなしスパイとして敵と戦う…もうむせ返るほどの”英国”です。

そんな秘密組織キングスマンにはある秘密の暗号が存在しています。「ブローグではなくオックスフォード」…これは革靴のデザインのことで、ブローグとはもともと農作業用にアイルランドの農民たちが履いていたという通気穴のデザインがあるもの(今では単に飾り穴ですが)。対してオックスフォードはストレートチップとも呼ばれるシンプルでビジネスライクなシューズ。これは「ブローグの穴飾りなんて不要。シンプルで品のあるオックスフォードこそ紳士の靴」みたいな意味なのではないでしょうか。暗号にも英国紳士を忘れないキングスマンさすが。

「スーツは現代の鎧」とは作中でハリーがエグジーに言って聞かせた言葉ですが、本作では登場人物たちのスーツの着こなしも見どころの一つと言えます。そんな本作で個人的に一番グッときたシーンはラストのラスト、敵のボスを倒したエグジーがスーツの袖からシャツの袖をクッと引っ張り出すシーン。

紳士!!これぞ紳士!!!

スーツを着る時はジャケットからシャツの袖を少しみせるのが正しい着こなし。007のボンドもそうだが、敵と激しい戦闘を終えた後でも身だしなみを忘れないのが本物の紳士なのです。

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・007への歪んだ愛とオマージュ

さて、英国でスパイ映画といえば何を隠そう007なわけですが、今作にはそんな007に対する愛と悪意に満ち溢れたオマージュの数々で溢れています。

まず冒頭、雪山の小屋に監禁された重要人物をキングスマンの一員が助け出すシーン…

もうここから完全に007なんですよ。

007シリーズにおいて雪山での戦いというのはかなり定番であり『女王陛下の007』なんかで有名で、007マニアで知られるクリストファー・ノーランも自身の作品(『インセプション』)の中でオマージュしていたくらいなのです。そんな雪山の小屋にスーツ姿のスパイが登場するという、開幕即これ007かよっ!って感じでした。そして何と言っても面白いのがそのキングスマンのメンバーが即敵のボスによって殺されるということ。「007とジェームズ・ボンドなんか敵じゃない」と言わんばかりの展開に思わず笑いそうになりました。そう。このシーンこそ「同じ英国スパイ映画でもキングスマンは007は違うぞ!」という監督のメッセージであり宣戦布告だったわけです。

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・マシュー監督は本当は007を撮りたかった!?

さてさて、町山智浩氏がトークショーで語った内容に注目してみましょう(「見所は007に対する嫌がらせ」町山智浩氏が映画『キングスマン』の裏話を語る

町山:これはやっぱり、『007』。ジェームズ・ボンドものに対する嫌がらせみたいな内容ですよね。2人が会話するときに「最近のスパイものはどうもおもしろくないな」と。それは最近ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドに対する僻みなんですよね。

昔の『007』は悪役のほうがバカげた社会征服のアイデアを出していたのに。主人公がバーに行ったときに、「マティーニをジンベースにしてくれ」「わかってるね」ってセリフがあって、それはジェームズ・ボンドが必ずウォッカベースでマティーニを飲んでるんで、「邪道だよ!」みたいな。「わかってないね」みたいな嫌がらせなんですよ。

奥浜:なんで『007』の設定的なものを取ったんですかね。

町山:もともとマシュー・ヴォーン監督が『007』のカジノロワイヤルシリーズを監督する予定だったからですよ。

(会場笑)

奥浜:完全に当て付けというか……(笑)。

町山:逆恨みですね(笑)。それで、マシュー・ヴォーンは『007』でやりたかったのは、ダニエル・クレイグのようにどう見ても労働者階級のあんちゃんみたいなのが、どうしてイギリス女王陛下のスパイになれるのか。それは、ガタイばっかよくてケンカしているあんちゃんがスカウトされて、いろんなことを教えられて、イギリスの立派なスパイになってくって話をやりたかったんですね。

そういう企画をちゃんと出してたんですけど、コンペで落ちてるんです。「じゃあ、俺がやるよ」ってことで、原作者のマーク・ミラーと一緒に撮ったんです。

奥浜:本当に腑に落ちる話ですね。でも、そういうふうになってるのかどうなのか(笑)。

町山:でも、最後の方すごいじゃないですか。「死に際にダジャレ言わねーのか」みたいな。「そういう映画じゃねーから!」みたいな返しで(笑)。あれは『007』のことですからね。すごいなーと思いますよ。

 

この記事はキングスマンが007をどれほど意識していたかということが本当にわかりやすい。とくに監督マシュー・ヴォーンが『007 カジノロワイヤル』の監督をやりたがっていたというのは面白いエピソードです(ちなみに同作の監督はあのクエンティン・タランティーノも熱望していたという)。

キングスマンの作中では「昔のスパイ映画は良かった。世界征服を企む敵や頭の悪い秘密兵器がたくさん出てきたから。」とわざわざ登場人物に語らせますが、これはもう完全に過去の007と今の007の対比的な話です。というのも007はシリーズを通してコメディ色が強くなる→原点回帰的にシリアスになる、というのを繰り返しているのです(わかりやすい例だと「美しき獲物たち」→「リビング・デイライツ」、「ダイアナザーデイ」→「カジノロワイヤル」など)。現行のダニエル・クレイグによるシリーズはコメディ色を抑えたシリアス路線の007として人気を博していますが、マシュー・ヴォーン監督はこの風潮にNOと言いたいのでしょう。以前の007では「スペクター」という世界征服を企む悪の組織が存在し、秘密道具の数々と頭の悪い改造を施したボンドカーが定番でした。しかし近年のシリーズではこう言った要素は抑え正統派スパイアクションとしての色を強めています。キングスマンはそんな007に「面白いスパイ映画っていうのはこういうもんだ!」と言わんばかりの内容なのです。

キングスマンにはなんともびっくり仰天な秘密兵器の数々が登場します。中には過去の007でも見たことあるようなものもチラホラ(靴先から飛び出る毒入りナイフ、ノックして効果を発動するペンなどなど)。男心をくすぐるとおもわずニヤニヤしてしまうアイテム、これは確かに過去の007にあって今の007にはあまりない要素ですね。

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銃弾を防ぎ、銃にもなるキングスマンの紳士傘。

 

そしてなによりラストシーン!敵を倒した主人公と美女が濡場に突入し、見かねた主人公のパートナーが通信をきってエンドロールへ…

これもう完ッッ全に007やん!!!

昔の007ではもう必ずといっていいほどあったエンドロールへの入り方。どうしようもないけど憎めない、そんなボンドを演出するしょうもないと言えばしょうもない定番の終わり方だったんですが、まさか2015年になって拝めるとは…なによりこの後もう一度話が本編に帰ってきて見事なエンディングを迎えるんですが、それもまた007へのあてつけのようで面白かったです。「キングスマンは007の一歩先をいくぞ!」という意味にも取れました。

※007とジェームズ・ボンドに関してはこちらの記事もどうぞ(「ジェームズ・ボンドに”男”を学べ」

他にもキャスティング(英国スパイ映画の名作『ミニミニ大作戦』で主役だったマイケル・ケインをキングスマンのボスに添えたり)犬(イギリス人は犬が大好き)などここでは語りきれてない英国的要素が『キングスマン』には満載です。

 

・『キングスマン』と『007』、今年覇権を握るのはどっちだ!?

そして2015年、12月に007シリーズ最新作『007 スペクター』の公開が控えている。

…ああ、我々はなんて幸せなんだ!!!

スパイ映画の帝王ともいうべき『007』シリーズの新作と、驚異の新人『キングスマン 』を同じ年に鑑賞できるのです。007の新作は前作『スカイフォール』で登場人物が一新され新たな展開をみせるところで、特に往年の敵組織スペクターの復活を匂わせている。『キングスマン』で「今のスパイ映画には魅力的な敵組織が足りない」と言われた、まさにそのタイミングでだ。

『キングスマン』が見せた過去のスパイ映画への熱い愛と今までにない爽快感という、スパイ映画の新たな可能性。そんなキングスマンに対して『007 スペクター』はどんな内容となるのか、今から楽しみにしていきましょう。

というわけで今回は以上です。


K.すみす

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白とチーズとペンギンと音楽と野球
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