成功に埋もれた気鋭のネオ・サイケデリア作品―CASCADE「APOLLO EXERCISER」 (1994)


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はとです。

日本のロックバンドCASCADE(カスケード)をご存知でしょうか?あるいは「FLOWERS OF ROMANCE」という曲を耳にすれば、その歌のメロディに覚えのある方も多いかもしれません(あの”咲き乱れよ 若き乙女たちよ”のフレーズです)。恥ずかしながら私のCASCADEに対する認識も、最近まではヒットソングを知っているレベルのものでした。

今回は、そのCASCADEがインディーズ時代にリリースしたミニアルバム作品「APOLLO EXERCISER」について。あのバンドがこんな音楽をやっていた!?という意外性と、その想定外なすばらしさについてのお話です。

CASCADE
音楽オーディション番組『えびす温泉』(テレビ朝日系)の出演をきっかけに1995年11月デビュー。
1998年リリース「FLOWERS OF ROMANCE」や「YELLOW YELLOW FIRE」などのヒットで知られ、数多くの武道館公演を行いながら、惜しまれつつも2002年に解散。
2009年、約7年振りに復活し、ミニアルバム『VIVO』をリリース。再始動ライブを恵比寿リキッドルーム、O-EAST(追加公演)で敢 行。チケットは即日SOLD OUTし、両日ともに超満員の中、メンバーは変わらぬ姿を披露した。熱狂的なファンの盛り上がりを受け、CASCADEとして再スタートをきる。 (CASCADEオフィシャルサイトより)

 

『FLOWERS OF ROMANCE』(1998年 シングル作品)

色褪せないポップセンス。効果的に挿入される中国音階が印象的です

 

後年、ポップミュージックとしての新しい取り組みに実験的に実践的で、常にクオリティの高い作品を発表し続けているCASCADEですが(後から解散後のアルバムまで耳を通しました)、インディーズ時代の彼らは、メジャー時代における多彩なギミックとユーモア、オモチャのような児戯感覚とカラフルさ、歌謡メロディ、ダンス・ポップ性……などといった要素は皆無であり、端的に言えば、ネオ・サイケデリア/シューゲイザー、ネオ・アコースティック、ノイズ・パンクなどを消化したもので、その構築性は1994年にして日本のオルタナティブ・ロックとして非常に先鋭的であったと思われます

そのような時期にリリースされた「APOLLO EXERCISER」のその中身を紐解けば、いきなり8分を超える長尺でかましてくる冒頭のトラック「アマリリス」の時点で感じさせるところは大きいです。ミドルテンポの不穏でスペーシーなベースラインにはじまり、ボーカルラインまで含めた深いリヴァーヴサウンドには、ネオサイケからの流れを直感させるには十分な響きを持っています。そこには、後のCASCADEのアイコンとも呼べぶべき、無邪気な少年性のある人を喰ったような特徴的ボーカルパフォーマンスとユーモラスさはなく、淡々と音の波に融け込む静謐さすらあります。

3トラック目に配置された「See Saw」ではリズミカルなキャッチーさを持つネオアコ/ギターポップにシューゲイザー・サウンドを等比率でリミックスしたような構造。「KILL ME STOP」はメジャー作品にもアレンジ版が収録された同タイトルのオリジナルテイクにあたります。メジャー以降のバンドとの数少ない接点にして手がかりになりそうなトラックですが、曲構成やリフは共通でありながらも、ノイズやローファイさを強調したミックスでアングラさを孕んだまったく異なる趣があります。紋切り型ではなく、一歩も二歩も踏み込んで洗練されたポップなノイズ音楽としての作品性、ジャンルに囚われないフリーキーなミクスチャー感覚の妙は、まさに往年のCOALTAR OF THE DEEPERSを彷彿とさせるものではありませんか。同時代的なバンドながら、当時互いに干渉しあっているとは思えないCASCADEが並行的にDEEPERSと解釈の近いアプローチを見せているのは、それだけで目を引きます。(奇しくも線の細い中性的なボーカルが印象を後押しします。)

『See Saw』(ミニアルバム「APOLLO EXERCISER」より)

 

『Kill Me Stop』 1995.6.4 “えびす温泉”

メジャーデビューのきっかけとなったTV出演ながら、インディーズ期の個性がまだまだ色濃い

 


インディーズ時代のCASCADEは、メジャー以降のスタイルに魅力を見出す多くのカスケーダー(CASCADEファンの一般呼称)には、その音楽性やスタンスのギャップからなかなか相容れないことと推測されます。また、出自がヴィジュアル系バンドであるボーカリストを擁しながらも、いわゆるヴィジュアル系音楽やそれに準じた音楽をバックグラウンドに持っているわけではありません。逆に本来耳馴染みが良さそうなネオサイケリスナーも本作品へ辿り着くきっかけは限りなく少ないでしょうし。前述のようなバイオグラフィをはじめ、バンドの公式サイトでもこの時期の作品については一切触れられていません。

メジャーデビュー後、作品を発表するたびにその音楽性に数々の変遷がありますが、やはりこのミニアルバムは群を抜いて異色であり、その前後で明らかに切り離された音楽性です。アルバム全体を通してみても、音響系/ノイズで統一されたサウンド・メイキングはこだわりが伺え、その手の作品としてもポップに洗練された優秀さを感じさせます。

日本においてエポックメイキングな素養を持った気鋭の音楽であるにも関わらず、バンド自らその音楽性を仕切り直してしまったことも相まって、その後同系統の音楽ジャンルの文脈で語られれず、世の明るみに出る機会の失われた、非常に希少性の高い作品と言えるでしょう。日本のネオサイケ/シューゲイザー音楽の他、DEEPERSのリスナーなどから、その印象や感想を教えてほしい興味が湧いてきてしまいます(よろしくお願いします)。本作品は廃盤ですが、今現在中古市場でも安価で入手しやすいと思います。

 

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ボーカルTAMAの名前が当時は”GYOKU”であったことが一番びっくりしました

 


 

CASCADE『APOLLO EXERCISER』(1994年作品)

01.アマリリス
02.FAD・SID・SED
03.See Saw
04.スーラーの風
05.KILL ME STOP
06.宇宙へ
07.(MIXER)

鳩田 誠司

鳩田 誠司

ヴィジュアル系バンドとガールズ・ラブ作品への嗜好に傾倒後、失業。近年労働に復帰しました。
鳩田 誠司