「動かぬ者と生きる」とお前は言った ―― 堀尾省太『刻刻』

というわけでtenkyoです。

電車に乗ったりしてちょっとヒマがあればAmazonでおすすめ商品を見てはKindleまんがを買ってばかりいる奴といえば私ですが、そんな中で最近『刻刻(こっこく)』という作品を読んだんですがこれがチョー面白く。

『刻刻』は「モーニング・ツー」にて2008年に開始した作品で、2014年の完結まで六年間に渡り連載されていました。ジャンルは……サスペンス? 超能力モノ? どちらにも当てはまりつつ微妙にジャンルの芯にハマりきらない独特の雰囲気です。「モーニング・ツー」という雑誌の色がそうなのかもしれませんが、青年コミックの中でもとりわけ異色な感じが。
とにかく面白いんで読んでください! ……では話が終わってしまうので、軽くストーリーに触れてみて一部でも魅力が伝わる中継点になれればと。

そんじゃ以下。



まず『刻刻』の主要な登場人物から。

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佑河樹里
主人公である佑川家の長女で28歳。就職活動中で、面接から帰ってきてソッコー床で寝ているところ。
 
 

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じいさん
作中で本名が明かされず、ずっとじいさんとかじーちゃんとか呼ばれているジジイ。
 
 
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佑河貴文(左)/佑河翼(右)
貴文は樹里の父親で、翼は樹里の兄。ともに失職中。
 
 
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佑河真
樹里の妹である早苗の息子。
 
 
という感じで主人公一家パッとしねえ……!!
さて『刻刻』の物語は、樹里の甥である真が、幼稚園に迎えに行った翼ともども謎の集団に拉致されてしまうところから始まります。

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条件を呑まなければ家族を殺害すると予告してくる犯行グループ。
しかし、指定された時間にはどうあっても間に合わない――という絶望的な状況に。
 
 
そんなときにじいさんが出してきたのがコレ。

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作中で解明されない謎の一つである文字列

佑河のテレビの上に無造作に置いてあったこの石が、『刻刻』の物語の中心なのです。
この石とはすなわち、佑河に古くから伝わる「止界術」を発動させるための装置だとじいさんから明かされます。
 
 
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石を発動させるとどこからか光るクラゲのような生命体が樹里たちの体に取り込まれ、樹里たちは「止界」に入っていきます。
術者以外すべてが静止した「止界」に入るための術、つまり「止界術」によって時間を止め、拉致された二人を助けるために三人は現場へ。
無事二人を助け出して終了――と思いきや、思わぬ乱入者が現れます。
 
 
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樹里たち以外、誰一人動かないはずの「止界」の中において、同じく自由に動き回る集団――つまり、同じく「止界術」を使用して「止界」に入り込んだ集団です。
この集団こそ、「真純実愛会」と称する「止界術」を教義とする宗教団体なのです。
 
 
そして、この実愛会を統べるのが現教祖である佐河順治という男。
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自身では「止界術」を発動する術を持たない佐河は、自ら「止界」の内に入るため武闘集団を雇い、佑河家が「止界術」を使わざるを得ない状況に追い込んだのでした。
実際の「止界」へも、純粋な信者だけではなく雇った武闘派集団も引き連れてきた佐河は、「止界」を解明するため実験を繰り返します。

佐河が注目する「止界」の現象の一つに、「神ノ離忍(カヌリニ)」と実愛会が呼ぶものがあります。
「止界」では、術に入らず時間が止まった側の者たちのことを「止者」と呼び、術の使用者は「止者」に危害を加えることを教義で禁じています。
「止者」に対する殺意を感じ取り、「止者」の殺害を阻止するためにこの「神ノ離忍」が現れるとされていたのです。
 
 
そして、佐河は教義の通りに「神ノ離忍」が現れるのを目にします。
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「止界」の存在が確かなものであることを確信した佐河が、自身の体すら実験材料にしながら「止界」に深く入り込み、佑河家と対立していく、というのが『刻刻』主なストーリーです。



題材的には「時間停止」の超能力モノともいえなくもないですが、『刻刻』はどちらかというと時間が止まった世界そのものがストーリーの軸になっていて、「能力」よりも「異界」のほうに重きが置かれていますね。
「止界」の場合、術でそこに入り込んだ樹里たちは、止まっている人間がまったく近くできないほど高速で活動をしているのと同義で、そこはまったくの日常空間の延長でもあります。こういう感じの、あくまで日常生活から半歩ズレた場所でありつつ、そこに完全な異形のもの(『刻刻』の場合は「神ノ離忍」)が現れるという世界観は、特撮モノに通ずるものがありますね。GANTZなんかもこのパターンだといえます。

往々にして完全な別世界よりも、日常生活の延長線上でリアルに想像できる場所に「不可視の隣人」として異形のものがあるという世界観が個人的にかなりツボで、怖いのか何なのか妙に背筋がソワソワする内容です。

オッサンがよく読んでそうな漫画の絵柄っぽい渋めの絵柄でありつつ、アクションで迫力のあるシーンもあり、スピーディーな展開で一気に読めます。最初は地味に思える主人公一家も、「止界」の外では特筆するほどの個性がないことが、かえって「止界」の中においてのリアルさの表現に直結していて読者も樹里と同じく異界に少しずつ馴染んでいきますし、このあたりも作者の狙い通りなのでしょう。「神ノ離忍」をはじめ異形の作画は壮絶で、グロ表現というか生理的にかなり来るシーンも多々あり、特撮的に実写化しても面白そう。

また、これをネタバレというかどうかは微妙なところですが、冒頭で発動された「止界術」は、途中で解除されることはありません。「止界術」の外側で登場人物が活躍するようなこともありません。それだけに、再び時間が動き出した瞬間、どういう結末であれ受け入れなければならないという思いがけない爽やかな読後感に胸がすくのかもしれません。

作者の堀尾省太は年配の人なのかなと思って検索してみたら画像が出てきて、若い!と思ってインタビューを読んだら実年齢は41歳なのですね(天才すぎて受賞から12年後のデビュー

今のところ堀尾省太の作品はこの『刻刻』のみ。他の作品も絶対に描いてくれ!

全8巻と長編作品としては手ごろな長さで、電子書籍版も配信されているので手に取りやすいのではないでしょーか。

そんなわけで堀尾省太の『刻刻』、オススメです。


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