「LocJAM2振り返り勉強会」に行ってきた

という感じでtenkyoです。ここのところレポート記事が続いていますね。

今年行われたゲーム翻訳コンテストの「LocJam2」、そしてそこで扱われたタイトルであるところの「grandpa」について、以前の記事で軽くご紹介をしました。

そして先日、「LocJam」の参加者たちで集まり、題材であるgrandpaについて、そしてその翻訳についてを振り返ろうという勉強会が行われ、僕もそこに参加してきました。

「LocJam」での選考は、アマチュア部門とプロ部門に分かれているため、参加者の中には既にプロの翻訳者として活躍されている方も多数おりました。
その中で自分と他者の訳を見比べてみることで、訳しっぱなしで見落としていた自身の翻訳の問題点を見つけるきっかけにもなったかと思います。

他者の訳自体はLocJam2のサイトから確認をすることはできますが、文章をじっくりと振り返るという意味においては、こういった機会は貴重ですね。

この会ではプロの翻訳者としてゲーム翻訳・出版翻訳に携わっている、武藤陽生さん(ブログリンク:ゲーム翻訳リターンズ)が司会進行をする形で、「LocJam2」を振り返っていきました。武藤陽生さんといえば、「Gone Home」や「The Vanishing of Ethan Carter」の翻訳などにも携わっています。

今回の会の中で指摘された部分を振り返りながら、LocJam2でのテーマ作品であったgrandpaで注視するべきだった点について、個人的に思ったことを以下にまとめておきます。

ちなみに、武藤さんが今回指摘した要注意箇所に、自分の訳が見事に全部引っかかっていたので、僕の訳文を例として掲載しています。

■画面に出してはじめて明らかになる齟齬

さて、LocJamにおける翻訳作業の最大のポイントは、「実際に自分で画面に文章を表示し、見え方を確認できる」という点にあります。

ファイルの上だけで翻訳作業をしているときには気づきにくいポイントでも、画面に表示することで明らかになる場合もあります。LocJamでは、最終的な見え方の部分までを確認する、総合テストを行えるのが最大のポイントです。

しかしそれは逆に言えば、画面で確認できる以上はそこで不自然に見えるものが残っていてはならない、ということでもあります。

例えば、grandpaの中で次のような場面がありました。

2015071201

探していた帽子が見つかったものの、壊れてしまっていることに気づくという場面です。

ここで問題となるのが、「大きな穴が開いてる」という部分。
原文では、次のようになっています。

"Aww, look, there's a big hole in it."

なるほど、まさしく「大きな穴」と言っています。しかし実際に画面に表示されている画像を見てみると、穴が開いているというよりは、ざっくりと破れているというほうが近い形になっています。

そもそも原文で描写が食い違っているといえばそうではあるのですが、そこをさりげなくサポートしてやるというのも、翻訳という段階でなら可能な工程といえるでしょう。

こういった表示の上での齟齬が、画面表示を行うことではじめて明らかになる場合も多いかもしれませんね。(画像の通り、僕は表示テストをしても拾いきれていませんが……)

■何を残すかの選別

他言語の読み物を日本語の読み物にする、というのが翻訳の定義であれば、その中での善し悪しはどう決まるのでしょうか。

例えば翻訳された何かを読んでいるとき、違和感を覚えることもあるでしょう。そのとき、何に違和感があるのかといえば、「日本語としてヘンだから」というケースが大半ではないでしょうか。

日本語で読んでいるのにも関わらず、いわゆる原文が透けて見えてくるような文章は、翻訳という工程を通したことによる効果が十分に得られていない状態といえます。

こういった「日本語としての違和感」が現れやすい例として、武藤さんが指摘したのが以下の場面でした。

2015071202

原文では次のようになっています。

"There's nothing here, Grandpa. Just a bunch of old books. Is it true you already read all of them, Grandpa?"

-"Bring me that book over there."
-"Oh, never mind then."

こうして日本語の一連の文章として表示してみると、「全部読んだって本当?」という問いかけで終わっているのに対して、「そうか、ならいいんだ」という返答は確かにかなり違和感があります。原文をそのまま日本語に変換しただけでは、こういった違和感が残ってしまうのですね……。

この場面に関しては、「ならいいんだ」という返答を生かすならば前段の文章の順序を入れ替えるなどして、「古い本があるだけ」を末尾に置くことで違和感が軽減される、という指摘がありました。

そもそも日本語と英語では語順が違うのだから、ヘタに原文を尊重しすぎてしまうと日本語として不自然になるのも当然のことかもしれません。確かに、原文に忠実になろうとするあまり、日本語として不自然になってしまったら、それこそ翻訳としての意味がなくなってしまいますね。

あるところでは原文を組み替えるなどして、忠実にすべきところとそうではないところを判別しながら、いかに日本語としても不自然でないものに仕上げられるかというところに、経験の差でありスキルの差が現れてくるのかもしれません。

些事にこだわるあまり根本的な問題に気づかず手つかずのままになるというのは、スキルが未熟であるゆえに起こりがちなミスといえます。

細かいこだわりがあろうと、全体を見渡したときの不自然が残ったままであれば、それこそ細かくこだわった部分には目を向けてもらうことすらできなくなってしまいます。これは、翻訳に限らずあらゆる分野に共通して言えるでしょう。

■721問題

grandpaの中で、(おそらく英日部門においてのみ?)とりわけ話題になった“””721問題”””というものがあります。呼び方は今付けましたが。

721問題が何かということを知るためには、二つの場面を確認する必要があります。

まずはこの場面。

2015071203

そして次にこちら。

2015071204

はい。
というわけでまず第一の場面、ここでは暗証番号を入力してアイテムを入手する必要があります。暗証番号がある以上、どこかにヒントがあるのが宇宙の真理ですが、grandpaでもその例に漏れず、きちんとゲーム内にヒントが存在しています。
そして、そのヒントが現れているのが第二の場面なのです。

つまりここで読まれている、日記の日付が暗証番号になっているのですね。
なるほどじゃあ答えは721だろうと思って選択してみると、

2015071205

なんと不正解です。
なぜなら、答えは”721″ではなく”217″だからです。

どういうことかというと、原文では次のようになっているからです。

"Hmmm, let's see... On the 21st of July, I seem to have misplaced my favorite fedora. Teehee!"

7月21日じゃなく、21st of Julyだから”217″なのです。

これ、僕はまったく気づいていませんでした。(だってしらみつぶしに選択していける数だし……)

grandpaの場合はたまたまノーヒントでも攻略できる構成になっていますが、暗証番号のヒントとして結びついている”日記の日付”というゲームの中の一機能を、ある意味翻訳の工程で破壊してしまっているともいえます。

確かにこれが自分で暗証番号を入力するゲームだったら、クリア不可能になってしまいますね……。

かといって日付の表記を「21日7月」としてしまっては、それこそ日本語として不自然になってしまいます。
これに関する武藤さんの指摘として、「いっそ2月17日にしてみる」というものがありました。確かに、作中で「7月」とか「夏」というものが特にキーワードになっているわけでもないので、2月にしてしまっても違和感は生まれないでしょうから、一つのテクニックといえます。

■発揮される実力の範囲

というわけで、今回の会で上がった主なトピックを抽出して振り返ってみました。

特に最後の”721問題”などは、画面表示をして通しプレイをすることで気づきやすくなるものといえるでしょう。(僕はそれでも拾いきれていませんが……)
実際、いかにスキルがあろうと、ファイルの上だけでの作業ではどうしても見落としてしまう齟齬はおそらくあるのでしょう。最終的に画面を確認しなければ、翻訳者の実力は完全には発揮されない、ということは武藤さんのお話の中にもありました。

そして例えば、”7月21日”を”2月17日”のように思い切って変換してゲームとしての機能を生かす、というような判断が下せるかどうかも、翻訳におけるスキルの差でもあり、また翻訳者として人を介在させることの最大の意味といえるかもしれませんね。

実務におけるゲーム翻訳では、LTと呼ばれるこの画面表示確認の段階まで行うことは稀だといいます。

テストまで行うとなると作業量が膨大になってしまうので一概に良いことばかりとは言えないかもしれませんが、翻訳者が正しく実力を発揮するためには、プロが表示確認までを行うことが理想的なのでしょう。

Twitter: @tensato1


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