オツムのぬくい野郎になりたくない。『おれはミサイル』


6月24日は、全世界的にUFOの日です。UFOの日ですがミサイルの話。

『おれはミサイル』はSFマガジン02年2月号と5月号に掲載されたSF短篇です。現在は『ゼロ年代SF傑作選(ハヤカワJA)』と『コレクション戦争と文学 イマジネーションの戦争(集英社)』でそれぞれ書籍化されています。
著者は『イリヤの空、UFOの夏』『DRAGONBUSTER』『E.G.コンバット』等で有名な秋山瑞人。

(あらすじ)上下左右無限に続くと信じられている「大空(たいくう)」を、「自己の生存を図ること」を最優先任務として飛び続ける戦闘機「愚鳩(ドードー)」はある日、己の名前を問う不思議な声を聞く。それは自らが装備するミサイルによるものだった。互いを意思疎通のできる相手だと認識した両者は、敵機の撃墜と自己の生存のどちらを優先するかという価値観の断絶を抱えながら、それでも良き話し相手として共に空を往くのだった。

秋山瑞人、人間以外の知性体を書かせたら天下一品です。これも10年以上前に書かれた短篇なのですが、機械の動作に人間味を載せるのがとにかくうまい。以下作中の愚鳩のセリフを引用。
「脚の生えた自分の姿を想像してみたが、それは信じがたいほど不恰好なものに思われた。いわれのない中傷だ、感情がそう叫んでいる。大昔だろうが何だろうが、かつての自分たちがそんな不細工で大雑把な存在であったはずがない。地上が存在するしないはこの際わきに置くとしても、私の美意識は「脚のある航空機」のあまりの不恰好さを許さなかった。」「嘘に決まっている。意気地のないミサイルどもが地上の存在を熱望するあまり、そのディティールとして付け加えた作り話に違いない。」(ゼロ年代SF傑作選 P345)

こういった航空機なりのプライドをもつ愚鳩は、自分が装備しているミサイル達の最優先任務である「自らの死による敵の撃墜」を理屈では理解していましたが、感情の部分ではどうも納得していません。作品冒頭でも愚鳩は過去の任務で組んだ同型機「磊鳥(エピオルニス)」から聞いた「大地(グランド)」の存在も全く信じていません。この空は「縦にも横にも終わりのない広大な空」、つまり永遠だと信じています。彼の最優先任務も「自己の生存」という永遠に終わりのない、ある意味では達成されることのない任務です。

対して愚鳩が装備している十五発のミサイル達は、常に「終わり」を目指して生きています。自分がいつどこでどんな風に発射されて、どう敵機を撃墜するか。それだけを自分の存在理由としています。航空機にとっては永遠の大空に現れる明らかな異物と考えられる「大地」も、ミサイルにとっては万が一敵機を撃墜できずにそのまま推進力を失って永遠に落下し続ける最悪の事態が発生しうる大空で、その身を砕いて全てを終わらせてくれる、人間にとっての天国みたいなものとして語り継がれています。

こうして航空機とミサイルの考え方を整理すると、文明レベルの違う知性体同士がコミュニケーションを行うというとてもオーソドックスなSF小説のテーマがこの短篇の柱になっていることがわかります。

もうひとつこの短篇について考えられるのは、これが「ホラー小説」なのではないか、ということです。

なんでもない日常生活の中でふと耳にする異界(大地)の噂。誰も見たことのない、それでもディティールだけはやけにリアルな死のにおい。頭のなかに響く得体の知れない(ミサイルの)声。自分達とは全く異なる種族(ミサイル)との邂逅。臨死体験(嵐、敵機の襲撃)。目前に迫る、噂に違わぬ異界の扉(大地、鳥)。呪的逃走(ミサイルの発射)。日常への回帰。それでも自分が見たもの(大地)は忘れられない…。まあ少しこじつけ気味ですが。

敵機との戦闘を脱し、ミサイルも全て発射してしまい、話し相手を失ってひとり飛行する愚鳩の、ひどく哀愁が漂うモノローグ。これが刺さる読者の方もいると思います。「彼らは「成功」によって任務の幕を閉じることができる。少なくともそのチャンスはある。私にはそれがない。ミサイルたちがうらやましい。誰もいなくなった2081で、EMPシールドに囲まれた炎をひとり見つめて、私はそんなことを考えている。」(P366)僕は衝動的に中学の同級生のFacebookとか見ちゃったりすると似たような気持ちになりますね。何の話だ。生き方の話です。読後にため息が出るような話なんですけど、こういうのを読むと生きる気力が湧いてくることもあるんですよね。なのでみなさんにも読んで欲しいです。もっと言えば読んで感想を聞きたいです。むしろ聞かせろ!読め!という感じで今日はこの辺で終わりにしておきます。

かそりん(@kasorin_r


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かそりん

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趣味はマジック:ザ・ギャザリングと小説。好きなアニメはプリパラとマイリトルポニー。福島県から東京都に引っ越しました。
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