コンゴの紳士、サペーに敬意を表して  『Gentlemen of Bacongo』

2014年12月のNHKにて『地球イチバン「世界一服にお金をかける男たち」』が放送されました。
「サプールというかっこいい男たちがコンゴにいる!」といった声をネットでも現実でも見聞きするようになりました。この放送の反響がすさまじかったのだと感じます。

おしゃれなファッションに身を包むエレガントなコンゴの紳士たちsapeurs(サプール、またはサペー)が日本国内でも広く認知され、注目を浴びていることは間違いないでしょう。

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先日、『Gentlemen of BacongoDanielle Tamagni(著)の和訳版が発売されました。
本著オリジナル版は2009年にイギリスで出版されてから長らく、日本国内で入手しようとすると定価の何倍ものが値段が付いていました。よって、入手のハードルはとても高かったのです(現在も中古価格で5万円を超えている。新品だと20万円!)。
ソフトカバーになった和訳版は2,300円と非常に手に入れやすい価格になっています。

サペーについてもっと知りたい。NHKのサペーについての番組を見ただけでは、彼らの実態がまだつかめない。そう思っていた私には、今回の刊行はとてもうれしい動きでした。
今回出版された『Gentlemen of Bacongo』を読んで知ったこと、NHKの放送で見たこと、ネットに散らばるサペーについての情報を、つなぎ合わせていきます。

 

・そもそもサペーってなに?

 

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サペーとは、「Society for the Advancement of People of Elegance」の略であり、訳すと「エレガントで愉快な仲間たち」や「おしゃれで優雅な紳士協会」と言った感じです。SAPE(サップ)という呼称もあります。

サペーは職業ではありません。彼らの職業は別にあり、決まった日(主に土、日曜日など。地域によって違う)におしゃれをして街を歩き、サペーの集会に出かける人たちのことです。彼らは街を歩き、ナイトクラブに行き、サペー同士で会話などをして休日を楽しみます。感覚的にはハレの日に近いでしょうか。バコンゴ地区のサペー御用達のクラブはラ・マン・ブルー、ババ・ボウム、ラ・デテントなどです。

彼らはコンゴ共和国、あるいはコンゴ民主共和国(この二つの国の主都は隣り合っている)を中心に存在しています。両コンゴはフランスとベルギーの統治下にあったそうです。コンゴの公用語はフランス語です。なお、パリやロンドン、ブリュッセル(ベルギー)にもサペーの支部(コミュニティ)があるそうです。
コンゴ民主共和国の主都はバコンゴ地区ブラザビル、つまり『Gentlemen of Bacongo』のサペーたちの住んでいるところです。
サペーを名乗るための資格や免許などもありません。サペーはライフスタイルを表す言葉と言う感じです。特に町内自治を行っているとかそういうものでもありません。しかし、街のスターのような扱いを受けています。

「貧しそうだけど、服はどうやって手に入れているの?」と疑問に思うかもしれませんが、彼らは働いて自分のお金で服を買っています。給料に対しての服にかけるお金第一位はロシアの9%(NHK調べ)ですが、サペーに限っては20%から60%ほどお金をかけているそうです。非常に多いですね。また、サペーどうし、お互いに服の貸し借りを行うこともあるそうです。
しかし、現在では服を持っていない青年に服を貸すだけのサペーもいて、問題になっているそうです。

いつ、サペーという文化が生まれたのか気になりますね。
どうやら、コンゴを植民地支配していたフランスのパリに居住し、紳士としての教養や優雅さを身につけて1922年にコンゴに帰ってきたアンドレ・マツワという人物を初代サペーとみなし発展していったという説と、コンゴ在留のフランス人を見て彼らの清潔さ、優雅さへのあこがれが原動力となりサペーが生まれたという考えがあります。
いずれにせよ、サペーが生まれてからは90年ほど経っているということは確かなようです。

 


・サペーの第一印象

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私がサペーを知ったのは2011年で、ネットの記事からでした。
“50~60年代のフレンチ・ファッションに身を包む、コンゴ共和国の半端無くダンディーな紳士「サペー」たち”

写真を見て、とてもかっこいいと感じました。
しかし、それは画像が与えるギャップの面白さに依るものが大きいです。
はっきりいって、コンゴといったら内戦や、貧困にあえぐ後進国の黒人といった先入観があったからです。
舗装されていないアフリカの路上に立つ、やたらおしゃれで、派手で前時代的なファッションをしているサペーたちが街に溶け込んでいるさまが奇異に映ったのです。
第一印象で、こういった風に彼らをとらえている人は私以外にも少なからずいると思います。
もし、彼らがナイトクラブにいる写真が撮られていたら。
もし、彼らがニューヨークの摩天楼をバックに立っていたら。
もし、彼らが真っ白な背景のスタジオで写真を撮られていたら。
おそらく「ああ、黒人が昔風の派手なスーツを着ているな。映画のワンシーンかな? 昔の写真なのかな? それとも、なにかのコスプレか、懐古趣味の人なのかな」程度の感想で終わっていたと思います。

サペーの本質は、その見た目の優雅さや奇抜さだけではないと思います。サペーの精神面やその成り立ちが、彼らを彼らたらしめている事実は明白です。

 


余談。

2010年のロンドンコレクションにおいてポール・スミスはサペーをモチーフにしたファッションを提示しました。1smithmingay620_1486635i111Paul Smith Spring 2010 Ready-to-Wear

2009年出版の『Gentlemen of Bacongo』の序文はポール・スミスによるものでした。イギリスからサペーへの発掘、注目が世界的に高まっていったのでしょう(本はイギリスで出版、ポール・スミスもイギリスが拠点)。

話を戻します。

 


 

・サペーの内面、精神性について。

自分の中で「面白い格好をしているコンゴの男」だけでしかなかったサペーでしたが、彼らの内面について掘り下げたドキュメンタリ映像がありました。これは2014年に制作された5分間の作品です。

[字幕動画]コンゴ共和国の超オシャレ紳士「サペー」たちのショートドキュメンタリー「The Men Inside The Suits」

日本語字幕付きの動画のリンクがうまく貼れないので、リンク先で見ていただきたいと思います。

彼らの精神面について言及されていますが、曰く「現状を肯定せず、生の喜びを感じること」とのことです。また、サペーは暴力を振るわない、平和を愛する側面が強調されています。なお、内戦を経験したseverin氏はNHKのドキュメンタリにも登場しております。

最貧国と言っても差し支えないコンゴです。教育を受け、教養を身につけることははっきり言って難しいと思います。衣食足りて礼節を知るという言葉もあります。かなり意識的に生活をしていないと、サペーにはなれません。

サペーはエンターテイナー精神を持ち、実際にエンターテイナーとして人々を喜ばせる側面があります。「子どものころにサペーを見て、自分もサペーになりたいと思った」と語るサペーも見受けられます。また、祖父や父親もサペーだったというサペーも多いようです。

彼らが街を歩くときは独特のステップ(スコンテ)を刻み、まるで歌舞伎の見栄を切るがごとく悠然と靴のほこりを払い、空を仰ぎます。これは人を楽しませるための行動にほかなりません。
「サペーとは暗闇を照らす明かりのような存在」と言うサペーもいます。

dandies_from_congo_014          スコンテを刻むサペー

 

NHKドキュメンタリ内のサペーは、スーツをまとわないときにはごくカジュアルで気さくな立ち振る舞いでした。しかし、彼らがひとたびスーツを着ると態度が一変します。その姿は、ともすれば冷淡で傲慢にも見えます。しかし、そこには他人への尊敬を表しつつも己がエレガントな紳士であろうとする美学があるのかもしれません。おそらく、軽口を口から発し、笑みを絶やさないような状態はエレガントではないのでしょう。

この立ち振る舞いの変化は、ある種の変身願望を満たしているようにも見受けられます。

また、サペー同士の会話で服のことについて話し合うことはあまりないそうです。人生についてだとか、教養を深めるためのものが多いとのこと。とても禁欲的です。

 

“ヨーロッパに住むサプールの一部は、自らのスタイルを「サップ」ではなく、科学や宗教のごとく「サポロジー」という言葉で表現する。”
??『Gentlemen of Bacongo』より

 

サペーの美学はとても言語化するのが難しいと思います。日本の「いき」のように、哲学的に考察して、コンゴ独自の美意識として考察する必要性があるのではないでしょうか。

 

 


・おわりに

誰に頼まれることもなく自発的に行動する。一文の得にもならないどころかお金をどんどん失っていく。
それでも、教養を身に着け、他人を尊び、紳士になろうとするコンゴのサペーという男たちの姿は超然としています。サペーが生まれたことは奇跡であり、非常に貴重で尊い存在だと思います。私も見習いたい。

 

 

火曜日担当 フィーバー吉崎

サクセス本田とフィーバー吉崎

サクセス本田とフィーバー吉崎

・火曜日担当
時代劇が大好きな無職のサクセス本田。
都内を徘徊する無職のフィーバー吉崎。
二人で一つ。
藤子不二雄のような共同アカウントです。
サクセス本田とフィーバー吉崎

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