岩井俊二監督の復活作『花とアリス殺人事件』の話


岩井俊二の映画が好きだーー!

という事で2015年上半期、岩井俊二が映画界に華麗にカムバックした事が嬉しくて嬉しくて、今回は岩井俊二大復活おめでとう的な記事として『花とアリス殺人事件』の話にしようと思います。

前フリとして僕は岩井俊二監督の映画がかなり好きでした。『花とアリス』『PICNIC』『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』『四月物語』…素晴らしい作品の数々がすぐに思い浮かぶし、あのキラキラした青春感とか美しいピアノのBGMとか全部大好きでした。でした…過去形です。過去形になってしまっていたのです。

正直映画版『花とアリス』を最後に岩井監督の才能は完全に消えてしまったと思っていました。というのもそれ以降岩井監督は創作映画の製作をぱったり辞めてしまい、ドキュメンタリー作品の監督やらプロデュース業、脚本業に専念しだしたからからです。しかもそのプロデュース作品やらが個人的にどれも超微妙な出来だったのがファンとしてはもうガッカリofガッカリ。『ヴァンパイア』だの『新しい靴を買わなくちゃ』だの『BATON』だの、思わず首をひねる作品の数々に「岩井監督もうあかんなー」と関西弁でダメだししたり。というかAKBのドキュメンタリーを製作総指揮しだした辺りから最早僕の中では過去の人になりつつあったのですが。

で、2015年。『花とアリス』の続編公開が決定したと聞いた時も正直微妙な心境だったわけです。あの名作の続編を今の岩井俊二が、しかもアニメで作るってそれどうよ??と、思ったのは多分僕だけじゃないはず。しかしこの続編『花とアリス殺人事件』なる映画は岩井俊二がついに、ついに帰ってきた!と確信できるに足る内容だったのです。

そもそも岩井俊二が映画を撮るのを辞めたきっかけには専属的カメラマン、篠田昇氏の死が関わっていると言われていました。篠田氏の撮る映像は唯一無二といっていいほど美しいもので、特に光の表現の美しさは岩井作品の内容と相まって神がかり的なものにまでなっていた気がします。そんな篠田氏が亡くなられたことで「撮りたい画が撮れなくなった」と、岩井俊二が言っていたと聞きましたが実際そうなんだと思います。篠田氏の映像と岩井監督の脚本はワンセットだったし、あの組み合わせだからこそ数々の名作が生み出されてきたのは事実。その篠田氏の死によって岩井監督の映画も同時に終わってしまった、という感じでした。

しかし今回、『花とアリス殺人事件』は“アニメーション”という手段を使い、岩井監督はあらゆるハードルを飛び越えできました。ここでいう主なハードルというのは『花とアリス』に不可欠な蒼井優、鈴木杏が(年齢的に)もう学生役をやる事ができないこと、篠田氏による映像が失われた事でした。しかしアニメーションという手段を用いることでこれらのハードルをひょいと岩井監督は越えてきたのです。

この映画には過去の岩井作品同様美しい青春の光があるし、当時のまま鈴木杏の花と蒼井優のアリスが居るし、痛みと優しさをもった脚本も、それに調和する心地いい音楽もある。岩井監督は昔と変わらない素晴らしい映画をまだ撮れるんだ!と確信するには十分すぎる出来でした。アニメーションも観はじめた時は違和感を感じるかもしれませんが、慣れれば問題なく観られるはずです。

そりゃもう昔のヒット作の前日談で特別目新しい事をしてるわけでもなくキャストも一緒で…と懐古主義と言われたらそれまでの作品ですよ。それは否定しません。『インターステラー』の方がよっぽど凄いことやってますよ。でもね、自分の昔のヒット作をまた撮るっていうのはめちゃくちゃハードル高いと思うんです。しかもしばらく監督業から離れていて、もう第一線から退いてたタイミングで。これで中途半端な懐古焼き増し作品を作って仕舞えば自分のキャリアに間違いなく傷がつく訳ですし。ただ今回、岩井監督は自分が撮りたいもの、そして我々岩井ファンや映画ファンが期待するものを裏切らない作品を作ったのです。決して目新しくはないけれど、岩井俊二の映画ってやっぱ良いよな?と改めて思いだせる、そんな作品でした。

特に作中では青春を突っ走る女子特有の強さと輝きがまあ見事に表現されていたりして、やっぱ岩井俊二じゃないとこの感じは出せないよなあ?としみじみ思ったり。

岩井俊二ファンもそうじゃない人にも観て欲しい、2015年上半期で個人的にベストに挙げたい映画『花とアリス殺人事件』。是非今年のうちに。

すみす


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