風景画鑑賞のすゝめ

 

・風景画こそ個性的な美術!

“美術・芸術作品=作家の個性が出るもの”なんてイメージはあるかもしれませんが、それは見るからに奇抜でヘンテコリンな作品の事じゃないと僕は思います。じゃあどんな作品に作家や画家の個性が出るかというと風景画や静物画みたいに明らかなモチーフが存在しているジャンルにこそ画家の個性が出る!と僕は声高に言いたいのです。特に風景画は描き手によって様々な表情が出ると思っています。「風景画なんて写真で充分やろ」「誰が描いても一緒やろ」なんて思ってるそこのあなたに「いやそれは違うぞい」と言いたいが為に今回は風景画の話です。文化人っぽくないですか。

単純に記録として残すならそりゃもう写実性の高い絵の方が良いし、ぶっちゃけ絵描くより写真撮った方が早いです。ただその時その場所を「個人の感覚を加えて」記録してあるのが風景画の醍醐味です。全く同じ風景を全く同じ角度から記録する場合、写真なら100人いれば100枚同じ写真が撮れますが、絵で描くと100人いれば100の違う記録が残ります。これが風景画の面白いところ。

ではここから何人かの画家や作品を紹介しつつ、風景画の魅力とはなんぞやという話をしていこうと思います。

①やっぱり凄い写実派

記録媒体としては基本的に絵は写真に劣るかもしれません。ただ時に、写真すら超えるような風景画だって僕はあると思ってます。例えばリアリズム派の巨匠、ギュスターヴ・クールベの描く切り立つ崖や荒れる波の描写なんて完全に実写超えてるやんけ!と思わず猛虎弁になってしまうくらい力強い。あるいはクロード・ロランの細かな描写なんて目の前にすれば思わずじっと見つめてしまう精密さ。実物を前にすれば人の手でここまでの作品を作れるのかと感嘆してしまうはずです。

クールベ先生の作品。風景画のお手本にして究極 と言える完成度。写真よりも伝わるものがあるはずです。

クロード・ロランの名作。細かな描写力もさる事ながら、光の差し込み方や人物の挙動ひとつひとつに果てしない拘りが感じられる。

②ぼんやりもやもやな印象派

しかしリアリズムとは逆にボンヤリと描写する事で光の明るさや柔らかさを表現する事もできます。有名な印象派の作品ですね。超有名なクロード・モネの『睡蓮』なんて、近くでみたらなんか丸い円がベッチャリ塗ってあるだけで「これどこが睡蓮やねん…」となるのですが、離れて全体で見た時に、僕たちはそれを水辺に浮かぶ美しい睡蓮だとしっかり認識できる訳です。これって冷静に考えるととてつもなく凄い!イギリスのターナーが描く風景なんてもはやどんだけ霧かかってるんだよって感じですが、強い光でぼやけた感じが伝わってくるはずです。

モネの超有名作『睡蓮』。よく見れば細部は描写せず色彩と筆のラインだけで全てを表現しています。 でも水と睡蓮の美しさが伝わってくる。簡単にできる表現方法ではありません。

ターナーはもともと非常に写実力の高い画家でしたが、次第に光の表現を強めていきます。上の作品なんかは波の写実性と船や建物の抽象性が素晴らしいバランスです。

③綺麗なだけが風景画じゃない

今までは分かりやすく綺麗な風景画を紹介しましたが、僕が一番かっこいいと思う風景画は日本人画家佐伯祐三が描くパリの風景です。普通パリといえば花の都なんて言って明るく華やかな印象ですが、実際のパリはスモッグが酷く、スリが活発で治安も悪い、果ては路上は吸殻だらけとお世辞にも綺麗な街じゃないんですが(パリの悪口ばっかですね。ごめんパリ)、そんなパリのどんより感を力強く描いたのが佐伯祐三氏です。筆をこうガッと下ろした線に黒系統が印象的な色使い、綺麗で正確なだけじゃない、ある種の都市部の陰りさえ風景画には折り込まれています。

ダークカラーを基調にパリの街並みを力強く描いた佐伯祐三の絵は、どこか退廃的な雰囲気があってかっこいい。

④日本の風景画も素晴らしい。

ここまでは西洋絵画ばかり褒めてましたが日本の風景画、というか浮世絵は西洋絵画とは違う独自路線の色彩豊かでデザイン性の高い風景を描いていたのです。例えば『東海道五十三次』で有名な歌川広重の絵なんて画面のど真ん中に対象をもってくるなどルール無用な構図の取り方をしているのですが、これがめちゃくちゃかっこいい。『富嶽三十六景』の葛飾北斎も細かな波の描写や富士山を赤く塗るといった独自性はかなり上手いですね。

西洋の絵画界にも大きな影響を与えた浮世絵。歌川広重のこの作品は作品のど真ん中に遮蔽物があり遠くに風景があるという普通考えられない構図ですが、素晴らしい出来です。天才。

葛飾北斎のこれはもう紹介するまでもない名作ですね。富士山を赤で塗るそのセンスには脱帽。


⑤その他色々な風景画

スーラは印象派のモヤモヤ感を突き詰めた結果、点描という画法を生み出してたりしてポスト印象派なんて呼ばれてました。これも今では基本的な画法のひとつといった感じ。またゴッホなんかは「ザ・ゴッホ」とでも言うべき我流の描き方を貫いてますが、彼の描く風景画にも独特な美しさがあります。

スーラの点描による代表作。柔らかで明るいタッチが魅力。よく目を凝らすと細かな点で描かれているのが分かります。

個人的に好きで好きでたまらないゴッホ作の『星月夜』 。夜を明るく照らす星と水面がこれ以上ないほどに美しく描かれています。本物を見るとゴッホ特有のゴッテリと塗られた絵の具による立体感にも感動します。

・まずは美術館へLETS GO

というわけで今回は風景画というテーマを取り上げた訳ですが、写真や画集で見てもその魅力というのはどうしても伝わり辛いものです。なので本物に触れるためにも是非美術館へ足を運んでください。僕は画家の作品を美術館へ観に行くことは、音楽でいうとミュージシャンのライブへ行く事と同じだと思っています。ミュージシャンの演奏も、録音とライブでは全然違ったりするじゃないですか。それと同じで、絵画も画集で見るのと実際に間近で見るのではもう全く違うのです(ゴッホなんかは特に)。

現代アートや宗教画も魅力的ですが、記録媒体に留まらない画家の美的センスと技術が分かりやすく堪能できる風景画を是非。

すみす

K.すみす

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白とチーズとペンギンと音楽と野球
K.すみす

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