名詩選を読もう


今回は各国の詩を集めた岩波文庫の「名詩選」を読もうよ、という記事です。

昔の名詩を読む…というとなんか小難しそう、ハイソっぽくて嫌、などなど、難色を示す皆さんの顔がありありと思い浮かぶのですが、でも普通に小説読んでカッコいいなあとか歌詞カード見てフレーズ真似したいなあとか映画の台詞メモっとこうとか思いませんか?あれと同じです。考えようによっては、むしろ小説などより短い分、目を通す作品が多くなって効率的とも捉えられます。

詩が難しい、というのは、あるいは学校の授業の影響だったり、難解な現代詩のイメージがあるからなのではないでしょうか。私も高級な現代詩っぽいやつとかだと正直ちょっと厳しいなあ、と感じるんですが、その点名詩選だとわかりやすくてかっこいい詩もわりとあるのでとっつきやすいかと思います(無論難しい詩もいっぱいありますが…)。

現代詩
現代詩(イメージ)

岩波文庫からは全部で五カ国分の名詩選が出ています。今回は独断と偏見によりそのうち3つを取り上げます。


まずは中国名詩選です。
漢詩なんて学生のときに漢文で習った時以来読んでもないし興味もない、という方が大半かと思いますが、意外と今読んでも格調高く格好良かったりします。我々の永遠のアンセムこと山月記の文体も、源流には漢文の響きがありますしね。王維の送別の詩から一首取り上げます。

送別  王維

下馬飲君酒 馬を下りて君に酒を飲ましむ
問君何所之 君に問う「何の行く所ぞ」と。
君言不得意 君は言う「意を得ず、
歸臥南山陲 南山の陲(ほとり)に帰臥せん」と。
但去莫復問 「但だ去れ また問うことなからん
白雲無盡時 白雲 尽くる時無し。」

実際に友人を送ったときに詠んだとも、王維の自問自答とも言われています。「白雲尽くる時なし」は「きっと白い雲がいつまでも君の伴侶となってくれるだろう」というような意味で、出世できず故郷に帰ることを決意した友人への挨拶ですが、ずいぶん洒落た言い回しです。
私の同級生に中国系の血を引いているらしいY君という人がおりました。不良で、授業もあんまり出てないような様子でしたが、私の代の卒業文集は彼の文章で締めくくられています。リュックを背負い旅立つラフ画に、王維の送別詩が添えられていました。今見ても超かっこいい。もうそんな機会もあまりないのでしょうが、こうした詩を一つでも知っていると役に立つのかもしれませんね。ちなみにY君、後年成人式で会いましたが完全に顔がマフィアでした。

また、こちらは名詩選には掲載がなく詩人の選集にしか載ってないので紹介するのは忍びないのですが、李賀という人に「陳商に送る」という詩がありまして、行く末の見えないまま都市で燻っている創作者志望の若者の絶望とは古今同じなのだなあというのが実によくわかる詩になっています。冒頭だけ引用します(自分のtumblrにはだいぶ前にあげているんですが、多分見てる人は少ないと思うので)。李賀、享年27歳。漢文での「鬼才」はまず彼を意味します。当時、彼は科挙の受験を理不尽な理由で拒否され、失意にまみれていました。

陳商に贈る  李賀

長安有男児 長安に一人の男の児在り
二十心已朽 二十にして心はすでに朽ち果てぬ

楞伽堆安前 机の上には楞伽経を積み
楚辞繋肘後 身の近くには楚辞を置きたり

人生有窮拙 人と生まれて世渡りに苦しみ拙く
日暮聊飲酒 日暮れにはいささか酒を飲みて慰む

祇今道已塞 我が道は今すでに塞がれたれば
何必須白首 白髪頭となる日を待つまでもなし

なるほど。


続いてはフランス名詩選。

個人的にはこの中で一番好きな詩集です。「泥棒詩人」ヴィヨンから象徴派、シュルレアリスムと、フランスの主要な流派の詩が一通り読めるというオトクな本です。堀辰雄の「風立ちぬ」の元ネタ、ヴァレリーの「海辺の墓地」なんかも(抄訳ですが)載っています。とくに珠玉の詩が多いフランス名詩選ですが、この中から一人オススメするとしたら私はジャック・プレヴェールの名を挙げます。
プレヴェールの良いところは、まずとにかくわかりやすい点。フランス語の学習のときにもよく用いられます。また、内容も味わい深く、かっこいい詩が多いです。ジブリの高畑監督も愛好していて自ら全訳も出しているくらいなんですが、プレヴェールの邦訳本は今なぜか新品で買える本が一冊しかなくて中古本価格が高騰しています。極めて遺憾。幸い名詩選にいくつか収録されています。とりあえず一つ引用。

Paris at night ジャック・プレヴェール

三本のマッチを一つずつ擦っていく夜の闇
一本目は君の顔全体を見るため
二本目は君の目を見るため
最後の一本は君の口を見るため
あとの暗がり全体はそれをそっくり思い出すため
君を抱きしめたまま。

ウワーカッチョイイ!!!どころか歯が浮いてどっか飛んでいきそうな勢いがありますが、正直声の良い男性とかが朗読したら女性の方ちょっとクラッときそうな感じではありませんか?そうでもない?私には判断つきません。でも良い詩だ。名詩選には載っていませんがもう一つ引用します(引用元)。これも格好いい。

公園 ジャック・プレヴェール

何千年でも、何万年でも
足りやしないだろう
あのほんの一瞬の永遠を
語るためには
きみが僕にキスをして
僕がきみにキスをした
あの時
冬の光のあふれる朝
パリのモンスーリ公園で
パリで
この地球上で
この地球、それは宇宙の一つの星

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プレヴェールの歯(イメージ)

あとこれは本当に余談ですが、私は高校生の時教室でこの本を読んでいたのを世界史の先生に見つけられ、「クロサワくんはね、休み時間にフランスの詩集を読んでいるんですよ!!!」と学校中に言いふらされた経験があります。


最後はイギリス名詩選。
エリオットの「荒地」など難解な詩もある一方で、なんとなく牧歌的というか、素朴な良い詩も結構あるなあというのが印象です。こちらも有名な詩人の作品は大体網羅されておりまして、今回紹介したいバイロンの詩も2首収録されています。対訳で一部のみ引用。全文(+訳)はこちらでも読めます。

僕たちが別れたとき ジョージ・ゴードン・バイロン

When we two parted
In silence and tears,
Half broken-hearted
To sever for years,
Pale grew thy cheek and cold,
Colder thy kiss;
Truly that hour foretold
Sorrow to this.

涙を流して黙って
あの時僕たち二人は別れたが、
これから何年か離ればなれになるという思いに
悶々の情に苦しんだ二人だった。
君の頬はいつの間にか蒼ざめ冷たくなっていた、
君の接吻はもっと冷たくなっていた。
思えばあの別れのひとときが、
今の悲しみを予告していたのかも知れぬ。

The dew of the morning
Sunk chill on my brow;
It felt like the warning
Of what I feel now.
Thy vows are all broken,
And light is thy fame:
I hear thy name spoken,
And share in its shame.

朝霧が冷たく僕の額に
ふりかかったのを覚えている、―――
まるで今の僕の気持ちを予感して、
警告を発しているかのようだった。
君はすべての誓いを破り、いまでは
浮き名を流す女になってしまった。
はしたない連中が君の名を口にしているが、
それを聞くと僕まで恥ずかしくなる始末だ。

まあ超要約すると「元カノがビッチになっていて悲しかった」ってだけになってしまうんですが、「朝霧が…」のくだりあたりが非常に鮮やかでいいなあと思いますね。ちなみに作者のバイロンはいささかエキセントリックな人だったらしく、派手な女性遍歴でならし、最終的になぜか突然ギリシャの独立戦争に参加してそこで病死しました。病死。

あと驚くべきは古典かインターネットか、音楽をつけた朗読や曲にしたものが動画サイトに結構な数アップロードされておりまして、なかなか面白いものになっています。たとえば上の詩だとこういう感じ。

なるほどな。楽しそうな。19世紀の詩を曲にのせて動画サイトにアップな。最高じゃねえか。俺も女の子になってアコギを弾きてぇ。あぁ、俺は女の子でもねえしアコギも引けねぇし、友達は日暮れにいささか酒を飲んで現代詩を書くような有様だし…。まあともかくこういう動画があるのも時代を超えて愛唱されているということの一つの証左でありまして、小難しいことはとりあえず脇においても十二分に味わうことはできるわけです。

古臭い、近寄りがたいという印象をひとまずおいて読んでみれば、いつの世も変わらぬ人の生きる姿が立ち現れてきます。今回ご紹介したのは本当にごく一部でしかありません。みなさんもぜひ読んでお気に入りの詩人やフレーズを見つけてみてください。

それではまた来週。

くろさわ

くろさわ

労働の対価をだいたい飲料に費やす水飲み百姓。飲み物以外の話もときどきします。
くろさわ

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