コンテンツ様式としての「山月記」


個人的に、僕が面白いと思うコンテンツの様式の一つに
「山月記型」「人虎伝型」
と呼んでいる(もちろん僕だけが使用している造語です)作品群があります。

それらは、その名の通り、中島敦のクラシック的大名作『山月記』と似たメソッドで描かれている世界観やストーリー進行・・・というだけで実際には山月記以前に書かれた作品も数多くあり、それらも含む呼称なので本当に名前だけの記号的区分です。(ただ、それほどに、そのある種の様式美を「山月記」はうまく描いた作品と言えるものです。)

「山月記」そのものを詳しく語るのは、手癖でいくらでも可能・・・というかネタが尽きることがないので後に回すとして、今回はその「山月記型コンテンツ」の名作達とそのメソッドについて触れたいと思います。
一応、未読の方もここで全文読めるのでオススメです。

『山月記型コンテンツ』とは・・・
ずばり「人が、ある日を境に人でなくなる」様を描いた作品のことです。

この世の中に生きる『人』は、他者、つまり自分と同じ『人』との関係性により自らの姿を知り、自分を保つことができます。
人が人を思いやり、人の群れの中に暮らすことが本来の人の姿、端的にいえば「人の幸せ」です。
誰しもがその幸せのなかで暮らしている、しかし、ある日突然何かの目的、使命、見えざる者の導き・・・それらによって、本来の「人の喜び」から逸脱し、それ以外の何かの為に生きることを決めてしまう、そんなケースがあります。

その瞬間に、その人は精神的には人ではなくなってしまうと言えるでしょう。

愛や友情や家庭など、本来人に用意された「人としての幸せ」を打ち捨てて、使命を全うするだけのマシーンや獣に成り果てる。また、そういう生き方しかできない修羅の者たち。
そんな人たちの変身、変わりゆくさま、葛藤、顛末、それらはおよそすべてが最悪の悲劇と言えますが、裏腹に至上のエンターテインメントとして、人の心を打つのです。

いくつか例を挙げます。これらは僕が個人的に大好きな作品たちでもありますので、回を改めて語ることもあると思います。

HANA-BI
残りの人生全てを使い、個人的な目的の為(この映画は妻のため)に修羅となる男。
北野作品はこのプロットに則られて作られている場合が多いです。

竜二
修羅に生きる男が心機一転し一般社会に生き直そうとして、やはり生きられなかった話。
後の伝記的映画「竜二 Forever」で言及がある通り、この話は主演脚本の金子正次が囚われていた創作への信仰を映し出したものという見方ができます。

魔法少女まどか☆マギカ
大本命、山月記型コンテンツの最新アップグレード版。
人の形をした人でないものとしての魔法少女の姿がとても丁寧に描かれています。
(実際に山月記っぽいのはテレビ本編のほうですが)

四十七人の刺客
目的の根源(事件の真相)すら眼中に入れず、あくまで物質としての結果を残すべく、集団を操り、計画し、死ぬ。
忠臣蔵自体とてもドライなコンテンツなのですが、その中でも特にストイックで冷酷な創作で、個人的にベストです。

上記の例以外にも、古今東西で数多くの名作が描かれましたが、(もちろんすべてを見たわけではないのですが)、大半の物語に共通した結末は「異形の者は人に戻ることを許されず死ぬ」ということです。
最終的に人として幸せになることなく、どこかで死ぬ。
「目的を達成できたんならそれが幸せだったんじゃないの?」という見方も確かにありますが、目的は目的であり、果たした瞬間に消え失せ、それまで必要だったものが全てがガラクタになるような、幸せとはほど遠いものです。虚しい幻です。あくまでこちら側(人)からの価値観ですが。

そして後で残るのは醜く変わり果てた、もしくは形だけが人の姿をしたヒトモドキの余生。人と交われず、誰にも理解されず、誰にも愛されず、人知れず死ぬ。
そこまでの一連がセットとして『山月記型コンテンツ』は完成します。

これらの作品が愛されるのはなぜでしょうか?

それは、鬼気迫る生き様にセクシーな魅力があるからでしょう。
残り全ての人生を突っ込めるだけの明確な目的意識、そういう生き方に憧れを抱くからでしょう。
また、すでに同じような生き方をしてしまっている人からは、違う戦地に赴く戦友を見て、彼や自分の顛末を思ってしまうからでしょう。

「人は人の中でしか生きられない」
山月記のメソッドはその真理を逆説的に、しかし強烈なまでに説得力がある形で表している、実はなにより普遍的な「人間賛歌」のテーマとも見えるのです。

それにしても、人が人でなくなるような原因が「復讐」や「天命」ならまだなんとかそれらしいのですが、同列として「創作」が上ってしまうことが『ものづくり』というものの罪深さを物語ります。
確かに創作活動は素晴らしいことで、控えめに言っても生きる理由になりうる、価値に満ち溢れた夢です。
それでも身内から虎が出てしまうのは悲しことで、願わくばうまく折り合いを付けて人として生きられたらいいと、僕も一般人ながらに思わずにはいられないのです。

暗い話になってしまいましたが、こんなところで。 peace


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